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Sérénade   Op.65-1  
  Frantsuzskij romansov
セレナーデ  
     フランスの詩人による歌曲

詩: テュルケイ (Edouard Turquety,1807-1867) フランス
      

曲: チャイコフスキー (Pyotr Ilyich Tchaikovsky,1840-1893) ロシア   歌詞言語: フランス語


Où vas-tu,souffle d'aurore,
Vent de miel qui vient d'éclore,
Fraîche haleine d'un beau jour?

Où vas-tu,brise inconstante,
Quand la feuille palpitante
Semble frissonner d'amour?

Est-ce au fond de la vallée,
Dans la cime échevelée
D'un saule où le ramier dort,
le ramier dort?

Poursuis-tu la fleur vermeille,
Où le papillon qu'éveille
Un matin de flamme et d'or?

Va plutôt,souffle d'aurore,
Bercer l'âme que j'adore:
Porte à son lit embaumé
L'odeur des bois et des mousses,
Et quelques paroles douces
Comme les roses de mai.

お前はどこへ行くのか、暁の息吹よ
今生まれたばかりのやさしいそよ風よ
このすてきな日のさわやかな息吹よ?

お前はどこへ行くのか、気まぐれなそよ風よ
木の葉が揺すられて
愛のために震えているみたいだというのに?

谷間の底にと下って
梢を揺すろうとするのか
そこには山バトが眠っているのさ
山バトが眠ってるその梢のところかい?

お前はそれから続けて真っ赤な花のところ
蝶々が目覚めているところに
黄金色に輝く朝に行くのか?

だったら行くがいい 暁の息吹よ
ぼくの愛する人の心を揺さぶりに
あの人のベッドへと運んでおくれ
この森や草原の香りと
そしてぼくの愛の言葉を
5月のバラを届けるみたいに


チャイコフスキーにはナポレオン軍を散々にやっつけてやったぜ!と高らかに奏でる「大序曲1812」なんていう作品もありますが、「白鳥の湖」などバレエ音楽に力を入れていたことからもお分かりのようにフランスの文化に対する関心は非常に強いものがありました。オペラ「エフゲニー・オネーギン」でも第3幕にフランス語で歌われるシーンがありますね。そしてあまり知られていないのですが、晩年にはOp.65としてフランス語の詩による歌曲集を書いています。
なんでもこの歌曲集は、彼が若い頃に結婚まで考えたベルギーのメゾソプラノ歌手デジレ・アルトー(1835-1907)と1887年に思いがけず再会し、それがきっかけでその翌年の1888年に書かれたのだそうです。彼女からの依頼だったのですが、彼女は1曲だけだと思っていたのが、思いがけずも6曲も書いて貰ってびっくりした、と記録にあります。
フランスの歌手はあまりチャイコフスキーなんかは関心がないからでしょうか、これらの歌曲はもっぱらゴルチャコーワによるロシア語訳による歌詞でロシア人歌手に歌われて、他の彼のロシア語作品とさほど変わり映えしないものになっている感もありますが、オリジナルのフランス語で聴くとなかなか不思議な味わいがあって面白いです。詩人があまり有名でない人たちで、私のような素人が読んでもあまり凄い出来とは思えないような詩につけたものばかりではあるのですが、音楽が素晴らしいので音になったものを聴くと大変に印象深いのです。

さてこの歌曲集、第1曲は軽やかなピアノのスタッカートに乗せて、目覚めたばかりのそよ風が踊っているかのようなとても素敵な歌。これだけはたとえロシア語で歌われていてもかなり他のチャイコフスキー歌曲とは少々違った雰囲気です。ボロディナやヴィシネフスカヤのロシア語詞による歌もそういう意味では面白いのですが、フランス語のオリジナルをテノールのセルゲイ・ラーリンが歌ったもの(Chandos)を聴いたときは言葉の響きの美しさに陶然としました。なんでフランスの歌を歌ってる人はこういうのをもっと取り上げないんでしょうか、と悲しくなってしまうような素晴らしさです。
フランス語によるロシア歌曲といえばツェーザル・キュイなどもたくさん書いており、けっこうなレパートリーがあるのではないかと思うのですが、やはりクラシック歌曲の世界も閉じた世界なのでしょうか。本当にもったいないと思ってしまいます。

ここでの訳はそういうわけで世の中に広く流布しているゴルチャコーワによるロシア語訳の詩からではなく、フランス語の原詩より訳しました。ところどころ内容が違っていると思いますがご了承を。ついでにいいますとこの歌曲集、もう1曲別の詩人の手になるセレナードがあります。お間違えのなきよう。またすぐ近くのOp.63、ロマノフ公の詩による歌曲にもセレナードがあります。この時期のチャイコフスキーの歌曲は似たようなタイトルが多くあってけっこうややこしいです。

( 2007.06.12 藤井宏行 )


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