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The Chimney Sweeper    
 
煙突掃除の少年  
    

詩: ブレイク (William Blake,1757-1827) イギリス
    Songs of Innocence 7 The chimney sweeper

曲: ブライアン (William Havergal Brian,1876-1972) イギリス   歌詞言語: 英語


When my mother died I was very young,
And my father sold me while yet my tongue
Could scarcely cry “ 'weep! 'weep! 'weep! 'weep!”
So your chimneys I sweep,and in soot I sleep.

There's little Tom Dacre,who cried when his head,
That curl'd like a lamb's back,was shav'd,so I said
”Hush,Tom! never mind it,for when your head's bare
You know that the soot cannot spoil your white hair.”

And so he was quiet,and that very night
As Tom was a-sleeping,he had such a sight!
That thousands of sweepers,Dick,Joe,Ned,and Jack,
Were all of them lock'd up in coffins of black.

And by came an Angel who had a bright key,
And he open'd the coffins and set them all free;
Then down a green plain leaping,laughing,they run,
And wash in a river,and shine in the sun.

Then naked and white,all their bags left behind,
They rise upon clouds and sport in the wind;
And the Angel told Tom,if he'd be a good boy,
He'd have God for his father,and never want joy.

And so Tom awoke,and we rose in the dark,
And got with our bags and our brushes to work.
Though the morning was cold,Tom was happy and warm;
So if all do their duty they need not fear harm.

ぼくのかあさんが死んじゃったとき、ぼくはとてもちっちゃかったけど
とうさんはぼくを売ったんだ、まだ舌が
じょうずに回らなくて「イープ!イープ!イープ!イープ!」しか言えなかったときに
だからぼくはきみんちのえんとつをそうじして、それからすすの中でねむるんだ

ちっちゃなトム・デイカーって子がいてさ、泣きだしたんだ あたまをさ
ひつじの背中みたいなまき毛だったんだけど、まるぼうずにされて、だけどぼくは言ったんだ
「泣くなよ トム、気にしちゃだめだ、頭がまるぼうずだったら
きみのきれいなかみの毛がすすでよごれる心配もしなくていいじゃないか」って

それでトムもしずかになって、その夜に
トムはねむってるときに、こんなゆめを見たんだ
何千人ものえんとつそうじの子供、ディックにジョーにネッドにジャック
みんなそろってまっ黒なかんおけの中にとじこめられてた

そこに天使さまがとおりがかった、ぴかぴかしたカギを持って
そしてかんおけをあけて、みんなを外に出してくれたんだ
それで下のみどりの野原へととびはね、わらいながらみんな走った
川で体をあらって、お日さまでかわかしたんだ

まっ白なはだかで、すすぶくろをおっぽりだして
みんな雲の上にのぼり 風の中であそんだんだ
そして天使さまがトムに言った、いい子でいたら
神さまがおとうさんになってくれるって、これ以上ないほどたのしいよって

そこでトムは目がさめて、ぼくたちは暗いうちに起きた
それからすすぶくろとほうきを持ってしごとにでかけたんだ
朝はとってもさむかったけど、トムはしあわせであったかかった
ちゃんとしごとをしてる人はみんな、こわいことなんてないのさ


18世紀のイギリスの産業革命期は、農村のコミュニティが破壊されて行き場のなくなった貧しい農民たちが都会にあふれていた時代で、そして都市では工場勤務という今までにない労働形態が生まれました。農村でも子供たちは労働力として見なされていましたから当然のように都市でも働かされます。その中でも最もひどい仕事がこの煙突掃除でしょうか。高くて狭いところを掃除するのですから当然体が小さいほど良く、この詩でもありますようにまだうまく言葉もしゃべれない4〜5歳の子供が人身売買されて働かされていたのだといいます。危険な仕事ですし、煤塵は当然ながら体に悪いですから病気になることも多く、今から見れば信じられないような悲惨な境遇にあった子供たちが当時のイギリスにはたくさんいたのだ、ということは知っておいても良いでしょう。そしてそんな子供たちの犠牲の上に現在の児童愛護の精神が培われてきたことも。彼らの置かれた状況への憤りからでしょうか、ウイリアム・ブレイクはこの煙突掃除の子供の詩を「無垢の歌」「経験の歌」にそれぞれひとつずつ書いています。原題はいずれも“The Chimney Sweeper”ですが、ここに描かれているのはもちろん子供ですから、私の付けた邦題の方は「煙突掃除の少年」としました。
ここで取り上げたのは「無垢の歌」の方。悲惨な境遇ではありますが夢を見ることだけは忘れない子供たちの姿を暖かいまなざしで描き出しています。「イープ(Weep)」というのはもちろん掃除「スウィープ(Sweep)」のこと。まだ子音のsがはっきりと発音できないほど年端のいかない子であることを強調しています。煙突の中の暗くて狭い仕事場を棺桶に見立てているところなども考えさせられますね。最後はほのかな救いを示して終わっていますが、現実に救いがあったわけではなく、ここでも本当に幸せだったのは夢の中だけではあったのですが...

この詩につけた曲で民謡風の素朴な明るい響きでありながらなぜか悲しい、非常に味わい深い音楽を紡ぎ出しているのがウイリアム・ハヴァーガル・ブライアンの書いたもの。イギリス音楽マニアの方にはあの巨大で奇怪な交響曲第一番「ゴシック」を書いた人としてお馴染みでしょうが、私も意外だったことにこの人は歌曲作品もけっこうな数を残しています。しかもこんな感じで他の多くのイギリスの作曲家同様にブレイクやシェイクスピア、といった古典の名詩につけたものが目に付くのが興味深いところです。いくつか聴いてみたところでは概して難解な、あまり楽しくない響きの歌曲を書いている感じの人なのですが、なぜかこういった古典に付けた歌は耳に優しい、とても印象的な作品ばかりでした。
こんなブライアンの歌曲集なんてCD録音が手に入るのがネット時代のすごいところ。
Toccata Classicsというレーベルからバリトンのための歌曲集ということで20数曲をブライアン・クックのバリトン、ロジャー・ヴィニョルスのピアノで録音したものがあります。

( 2007.06.15 藤井宏行 )


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