TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


綿の話    
  冬の歌
 
    

詩: 新美南吉 (Niimi Nankichi,1913-1943) 日本
    墓碑銘  

曲: 柴田南雄 (Shibata Minao,1916-1996) 日本   歌詞言語: 日本語


火をくべてくれるばあさんから
綿の話をきいた
私はあったかい五右衛門風呂にひたりながら
かまの外へ火が ちろりちろりと
出るのを見ながらきいた

こんげに「スフ」ばかりになっちゃ
こまるということから話ははじまった
わしらがむすめだった時分にゃ
どこの家でも綿をつくったといった

五月??時分に種子をまいて 夏中育(しと)ねて
九月??ごろ笑ませるだといった
木は二尺ぐらいあるだ
胡麻??ぐらいあるだといった

実はつばきの実に似ておって
一本に十もついている
それがぽっぽとはぜて あっちにもこっちにも
まっ白に笑んでいるだといった

その実をとって むしろにひろげて乾(ほ)いて
糸につむいで織??機(はたご)で織??るのが
わしら若い時分の冬?中の仕事だったといった
春になると それを売ったといった

いつか そんなことを
しなくなってしまったといった
織??機もこわして
縁がわをつくるのに使ってしまった家が多いといった

こないだ どこかの弘法さんで
糸車を買ってきさした人があった
まだあんなものが売っておるだわいと
思ったといった

家で織??ったもめんは丈じょうぶだ
まだ昔のもめんがふとんの裏にのこっておるだが
あんなものは ももひきのつぎにあてよか
なんていっとったといった

羽の弱??ったこおろぎが土間のすみで
絶え絶えに鳴いている夜に
ばあさんから綿の話をきくのは
聞くさへあたたかになつかしい



( 2021.01.15 藤井宏行 )


TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ