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En fuglevise   Op.25-6  
  6 Digter
鳥の歌  
     6つの詩

詩: イプセン (Henrik Ibsen,1828-1906) ノルウェー
    Digte  En fuglevise (1871)

曲: グリーグ (Edvard Grieg,1843-1907) ノルウェー   歌詞言語: ノルウェー語


Vi gik en dejlig vårdag
Alene op og ned;
Lokkende som en gåde
Var det forbudne sted.

Og vestenvinden vifted,
Og himlen var så blå;
I linden sat en fuglemor
Og sang for sine små.

Jeg malte digterbilleder
Med legende farvespil;
To brune øine lyste
Og lo og lytted til.

Over os kan vi høre
Hvor det tisker og ler
Men vi,vi tog er smukt farvel,
Og mødtes aldrig mer.

Og når jeg ensom driver
Alene op og ned,
Så har for de fjærede småfolk
Jeg aldrig ro og fred.

Fru spurv har siddet og lyttet,
Mens vi troskyldigt gik,
Og gjort om os en vise
Og sat den i musik.

Den er i fuglemunde;
Thi under løvets tag
Hver næbbet sanger nynner
Om hin lyse forårsdag.


ぼくらはこの素敵な春の日に歩いてた
ふたりきりで小道を上ったり降りたりして
それはとっても魅惑的だった
まるで禁じられた場所を歩いているみたいに

西風が吹いていて
空はとても青かった
菩提樹の木にはお母さん鳥が止まって
子供たちに歌を歌っていた

ぼくは詩と画を描いた、
楽しい彩りで
茶色の目が輝き、
笑い、耳を傾けた

ぼくらの頭上では聞こえた
笑い声が、さえずりが
だけどぼくらは、ぼくらはお別れを言いにきた、
そしてもう二度と会わないのだと

そして今、ぼくはまたさまよう
たったひとりで小道を上ったり降りたりして
同じ羽根の生えた連中にも
ぼくは喜びも平安も感じない

スズメ婦人は立ち聞きしていた
ぼくらが無心に歩いていたときのことを
そしてぼくらのことに詩をつけて
それを歌にして歌ってる

その歌は今鳥たちみんなに歌われている
なぜってこの若葉の下で
彼ら歌手たちがさえずっているのは
あの明るい春の日のことだから


イブセンの詩につけた歌曲集Op.25の最後の曲。楽しげな鳥の声に彩られて明るく歌われているものですから楽しい春の情景を歌っているのかと錯覚してしまいましたが、実はこの歌、去年の春に恋人に別れを告げたときのことを今年また巡ってきた春に鳥の声と共に思い出す、というちょっと悲しい歌なのでした。去年のお別れのシーンで聞こえていた鳥の歌声を、今年彼はたったひとりで聞いている。その歌声はまるであのお別れの情景を鳥たちが作詞作曲して歌っているように聞こえてしまうのは決して被害妄想ではないのでしょうけれど。
de fjærede småfolk(Feathered Smallfolks)という言い方も面白いですね。鳥たちが別れの目撃者であり立会い人であり、そして観客でもあるということなんでしょう。ふたりの別れのシーンはそうして見るとまるで観客を前にした演技のよう。一年前のことを振り返ってひとり歩くこの詩人にとっては、その思い出ももう微笑んで思い返すことができるくらいになったということでしょうか。
そうは言いながらも音楽の方は、最初と3連目は流麗な音楽ですが、「西風が」の2連目と「お別れを」の4連目はぽつぽつと、ちょっと悲しみをこらえているようにも聞こえる揺れるメロディです。そしてまた最初のメロディが戻ってきますが、そこからは最後まで一気に盛り上がっていきすがすがしく終わります。アッチェレランドがかかってから最後のフレーズ「あの明るい春の日」と絶唱したあとに高らかにピアノの後奏が奏でるのはあたり一面で鳴いている鳥たちの声でしょうか。グリーグお得意の美しい春を描写した音楽としてこれもなかなかに魅力的です。
Naxosにあるボディ・アルネセンのソプラノでCDの最後に収録されたこの曲を聴くことができます。

( 2007.06.02 藤井宏行 )


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