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Det syng   Op.67-1  
  Haugtussa
そいつは歌う  
     山の娘

詩: ガルボル (Arne Garborg,1851-1924) ノルウェー
    Haugtussa - 1.Heime 5 

曲: グリーグ (Edvard Grieg,1843-1907) ノルウェー   歌詞言語: ノルウェー語


Å veit du den Draum,og veit du den Song,
so vil du Tonarne gøyma;
og gilja det for deg so mang ein Gong,
rett aldri so kan du det gløyma.
Å hildrande du!
med meg skal du bu,
i Blåhaugen skal du din Sylvrokk snu.

Du skal ikkje fæla den mjuke Nott,
då Draumen slær ut sine Vengjer
i linnare Ljos enn Dagen hev ått,
og Tonar på mjukare Strengjer.
Det voggar um Li,
det svævest av Strid,
og Dagen ei kjenner den Sæle-Tid.

Du skal ikkje ræddas den Elskhug vill,
som syndar og græt og gløymer;
hans Famn er heit og hans Hug er mild,
og Bjønnen arge han tøymer.
Å hildrande du!
med meg skal du bu,
i Blåhaugen skal du din Sylvrokk snu.


ああ お前が夢を知っているなら、歌を知っているなら
お前はそれらの調べを覚えているだろう。
そして時にそれがお前を迷わすとしても
お前はそれを忘れることは決してできないのだ。
おお 魅惑的なお前!
お前は私と一緒に住み
青い山に お前は自分の紡ぎ車を廻すだろう

お前は穏やかな夜を恐れないだろう
夢がその翼を広げるとき
昼が持っていたよりもっと柔らかい光の中で
そしてもっと優しい弦の調べの中でも。
丘の斜面はまどろんでいる
すべての闘いはやむのだ
昼はこの至福のときを知らない

お前は激しい情熱を恐れないだろう
罪を犯し 泣き 忘れる情熱を
そいつの抱擁は熱く その心は優しい
そしてそいつは怒れる熊をも馴らす
おお 魅惑的なお前!
お前は私と一緒に住み
青い山に お前は自分の紡ぎ車を廻すだろう


たくさんの歌曲を書いたグリーグにおいても最高の傑作歌曲集としてはこのOp.67 Haugtussa「山の娘」が挙げられることが多いでしょうか。ノルウェーの山岳地帯で羊を追って暮らす山の娘・ヴェズレモイの暮らしと悲しい恋を描いた詩集「山の娘」から選んだ8編の詩にたいへん美しいメロディを付けた印象的な曲です。
といいながらこの詩集自体が日本語はおろか英語にさえも翻訳されていないようなので、歌曲集に取り上げられた詩だけを見ていると意味がさっぱり分からないという感じです。
グリーグの歌曲でもヴィニエの詩でたいへん翻訳に苦労した「春」同様、これもノルウェー語としてはマイナーな方の標準語ニノーシュク(ランスモール)で書かれているようなのでちゃんと訳そうとするとかなり苦しいところが出て参ります。また詩集としての全体像がよく分からないとちょうどこの第1曲のように何やら意味不明な歌詞があったりしてますます苦しい。
それもありましていろいろと参考文献となるものを探していましたところ、ネット上に大学の学位論文としてこの「山の娘」の研究をシェリル・クリステンセンという人が書かれていたもののコピーを見つけることができました。これがまたガルボリの原詩集からグリーグの歌曲集まで非常に詳細な解説を加えていてくれるものですから非常に参考になりましたので、これも参照しながら解説を加えていきたいと思います。
歌曲集冒頭のこの歌に用いられた詩は詩集の最初の7篇の詩からなる「Heime(Home)」というセクションの5番目の詩で、このセクションでは山に住むトロルやエルフなど人外の者たちがよく現れてくるのですが、この詩でもベッドで眠る娘ヴェスレモイのところに「ブッカトレフ」という山羊の魔物がやってきてこの歌を窓辺で歌う、というシーン。ですからこの曲の美しいメロディも実は山に住む物の怪の誘惑のメロディだったのですね。

妖しげな前半のメロディと、後半の息を呑むような美しいメロディとの対比が見事で、私はこの歌曲集ではこの曲を一番好みます。

グリーグはこの最初のセクションからもたくさん歌曲にしようとしたようですが、結局歌曲集に取り入れられたのはこの詩のみ。あといくつかはスケッチが一部なされただけであったり、曲としては出来上がったもののこの歌曲集には入れられなかったりといったことになりました。
この詩集全体の冒頭にあるプロローグ(この詩集の語り手がこの土地にやってくるところを描写している)についても曲は手がけたものの完成には至らず、以下

Heime わが家

1.Veslemøy ved Rokken (EG2)
  ヴェズレモイは糸を紡ぐ:作曲は手がけたが完成せず
2.Kvelding   (EG3)
   夕暮れ:作曲は手がけたが完成せず
3.I Omnskraai
  オーブンのそばで
4.Sporven   (EG4)
   つばめ:曲は完成・Op.67には含まれず
5.Det syng  (1)
   そいつは歌う:歌曲集の第1曲(この曲です)
6.Fyrivarsl   (EG5)
   警戒の予兆:作曲は手がけたが完成せず
7.Sundagsro
   日曜の平安

といった感じになっています。あとで詳しくご紹介しますが、グリーグの歌曲集ではOp.67の8曲のうち実に6曲が9番目のセクションのSúmar i fjellet (山の上の夏)から取られており、また歌曲集に含まれなかったが手がけた詩が他にもこのセクションに集中しているのが興味深いところです。というのもこの「山の夏」のセクションだけはさわやかな恋の物語、といった感じの詩が多く、他のセクションの不思議な雰囲気と一線を画している、ということがあるように思えます。
歌曲集最後の8曲目までご紹介が行き着くかどうか?はなはだ心もとないところはありますがどうぞ気長にお付き合いください。

( 2007.05.26 藤井宏行 )


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