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Pesnja o vstrechnom   Op.33  
  Vstrechnyi
呼応計画の歌  
     映画 呼応計画

詩: コルニロフ (Boris Kornilov,1907-1938) ロシア
      

曲: ショスタコーヴィチ (Dimitry Shostakovich,1906-1975) ロシア   歌詞言語: ロシア語


詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
朝はさわやかに
川面渡る風
恋しい人よ 君も
陽気な歌 歌おう
おはよう 恋しい人よ
今日も 仕事だ
栄光の祖国を築く
新しい一日

(1番のみを大意で歌える歌詞に
 してみました)

ショスタコーヴィチはスターリンの時代に何度か政府から反社会主義的であるといういわれのない批判を受けて「クラシック」の作曲活動から干され、映画音楽や劇音楽で生計を立てなければならなかった時期があったりもしましたのでけっこうな数のこのジャンルの音楽を書いています。「エルベ川」なんていう日本の中学校の音楽の教科書に載るまでに至った(最近は知りませんが私の頃には堂々と載ってました「われらがソビエトの地」なんて歌詞と共に...)作品も彼の映画音楽からは出ていたりするのですが、恐らく世界的に一番ポピュラーになったのはこの曲でしょう。これは1932年の映画「呼応計画 Vstrechnyi」(監督フリードリッヒ・エルムレル&セルゲイ・ユトケヴィチ)の挿入歌。Pesnja o vstrechnomという原題は正確に訳すと「出会いの歌」とでもなるでしょうか。映画のあらすじはgoo映画などで見ることができますが、「呼応計画(Counter Plan)」というのは計画経済下、国が出してきた計画に対してそれを実行する工場が自主的に更に能率が上がる計画を逆に提案して、官僚の承認のもとそれを遂行する、ということなのだそうです。そういうフィクション(やらせ)日本の工場でも「自主的××活動」とか称してかつては(今も?)あったりしましたので、そういうことを思うとこの手のやらせっぽいお話はたいへん苦い気持ちにさせられてしまいます。

ということで映画はスターリン治世下の国家政策のプロパガンダなのですが、爽やかなメロディもあいまって世界中でヒットしたのだといいます。本当かどうかは分かりませんがアメリカではあのジュディ・ガーランドが歌ったこともあるのだとか。彼女の録音は見つけていませんが、ソビエト、ロシアの歌に関心が高くてけっこう色々な歌を取り上げている黒人ミュージカル歌手、ポール・ロブソンがオーケストラをバックに軽やかに歌っている歴史的録音(Pearl)は見つけることができました。この録音では“United Nations on the March(連合国行進曲)”というタイトルになっていましたが、調べてみるとこのタイトルの曲で、1943年のミュージカル映画Thousands cheer(万来の歓呼)という作品にも挿入されていたHarold Rome & E.Y. Harburgによって英語の詞が付けられたものがあるのだそうです。IMDBによればこの映画ではこれも有名なミュージカル女優、キャスリン・グレイソンが歌っていることになっていました。この映画、ジュディ・ガーランドも出演していましたのでもしかするとガーランドが歌ったという情報のはこのグレイソンと間違えられている可能性もあります。
またこのマーチ、レオポルド・ストコフスキーが管弦楽バージョンに編曲したものもあり、パーメルト指揮BBC交響楽団の録音で聴くこともできました(Chandos)。
こちらも著作権があるかと思いますのでおおよその大意を訳詞のみでご紹介します。

  太陽が星がさざめく
  大地より沸き立つ歌で
  人類の希望の歌だ
  新たな世界の誕生の

  連合国よ行進だ
  旗をひらめかせ
  共に戦おう
  自由な世界のため
  

ショスタコーヴィチの交響曲第7番がナチスドイツに対する共闘の象徴としてアメリカで競って演奏されたように、この曲もまた米ソの共闘のために政治的に利用されたというところもあるのですね。ちょうど1942年独ソ戦争が始まって、連合国が共闘して日独伊のファシズムと共に戦おうという機運が高まっている時期でした。

まだスターリン下のソビエトが社会主義を信奉していた人々にとっての理想郷(とは言い過ぎか)だった1950年代のはじめには日本でも歌声喫茶などでよく歌われていたようで、私がやらずとも当時の日本語の歌詞はあるようですのでぜひ調べてみてください。歌声喫茶時代の日本語の歌の録音もあるようですがこちらはまだ聴くことができておりません。
なお日本ではこの歌の作詞は「森の歌」の詞や数々の映画の主題歌の作詞をした作詞家ドルマトフスキーとされていることが多いようですが、Delosのショスタコーヴィチ歌曲全集のCDでは作詞はB.Kornilovとなっていました。
ネット上で調べたときにはこの曲の作詞者はスターリンに1938年に粛清された、といった記述もありましたのでやはりドルマトフスキーではないように思えます。こちらは残念ながら調べ切れませんでした。でもこちらが正しければ作詞の著作権は切れていますね。きちんと調べてから余裕があれば訳してみようかと思います。

( 2007.05.12 藤井宏行 )


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