Liden Kirsten Op.60-1 5 Digte |
小さなキルシュテン 5つの詩 |
Liden Kirsten hun sad så silde, mens Gjøgen gol udi grønne Skov. Liden Kirsten nynned en Vise, imens hun sit Brudelin vov. Liden Kirsten hun sad ved sit Vindve og så på sin Ring af Guld, Skotted nedad sit sorte Skjørt og smilte så tankefuld. Liden Kirsten lagde sit Hoved tilro på Armens snehvide Lin. Og Hæggen dufted, mens Kirsten drømte om Kjæresten sin. Liden Kirsten løste sit gule Haar og gik til Ro i sin Kove. Liden Kristen folded de Hænder små, mens Gjøgen gol udi Skove. |
小さなキルシュテンはとっても遅くまで起きてる カッコウが緑の森で歌ってる 小さなキルシュテンは鼻歌を歌う 彼女の花嫁衣裳を縫いながら 小さなキルシュテンは窓辺に座る そして金の婚礼指輪を見つめる 黒いスカートをそっと押さえて 想いに耽りそっと微笑む 小さなキルシュテンは頭を乗せる 彼女の透き通った白い腕に サクランボの花の香りが漂ってくる キルシュテンが恋人の夢を見ていると 小さなキルシュテンは髪をほどく そして部屋をゆっくり歩く 小さなキルシュテンは小さな両手を握る カッコウが緑の森で歌うとき |
グリーグは多くの歌曲集において、ある特定の詩人の詩だけに曲を付けて纏めるということをよくやっています。有名なものでは「白鳥」が含まれるOp.25のイブセンによる歌曲集、「春」が聴けるOp.33のヴィニエによる歌曲集などがありますが、他にもムンク(Op.9)・ヴィンター(Op.10)・パウルセン(Op.26)・ドラクマン(Op.49)といったところが、特にあるテーマについて纏められたわけでもないのですがあるひとりの詩人の詩を集めて作曲された歌曲集です。私はノルウェー語が十分には分かりませんけれども、聴きながら詞を読んで見ても、それぞれの詩人の持ち味とうまく溶けあっていずれも個性的な面白い聴きものになっているように何となく感じます。
そんな中で私が一番心を惹かれるのは、Op.60のヴィルヘルム・クラグによる歌曲集。全部の曲がそうだというわけではないのですが、この詩人のユーモラスな持ち味にグリーグの鄙びた感じのメロディが絶妙にマッチしてとても素晴らしいのです。
5曲全部を聴きこんでいるわけではありませんし、全部ノルウェー語から訳すのは私にはあまりに負担が重いので、ここではそのうちいくつかを取り上げることにしようと思います。
この詩は第1曲。春は恋の季節ですね。乙女の結婚前のじわりとくる喜びをしみじみと表現しています。目がさえて眠れない春の宵、ピアノ伴奏でほのかに聴こえるカッコウの歌声もとても素敵です。そういえばヨーロッパではカッコウが春を告げる鳥の代表でした。彼女の名前はノルウェー語で読めばキルステンではなくてヒシュテンとなるようですが、ここでは往年のワーグナー歌い、キルシュテン・フラグスタートのイメージもあってドイツ語読みにしました。(ノルウェー語読みでは彼女はヒシュテン・フラグスターになりますがこれではちょっと私にはピンときません。歌で聴いてもヒシュテンというよりはヒルシュテンと聴こえたりもしますのでまあこれで訳させてください)
ピアノ伴奏のオリジナルとしてはモニカ・グルーブの歌ったBIS盤くらいしか現在は聴けないでしょうか。この人の歌声は非常にしっとりしていていいのですが、ちょっとこの歌の持つコケティッシュな軽やかさに欠けるかも知れません。他に面白い録音として指揮者のホセ・セレブリエールが管弦楽編曲したものがあり、アメリカのソプラノ、キャロル・ファーレイが歌っているもの(Dynamic)が聴けます。グリーグの曲は素朴なのが多いのであまり伴奏を管弦楽に編曲したものは合わないように思っていたのですが、今回色々とグリーグの歌曲を聴く中でけっこうそんなのも悪くないな、と思えました。この曲も木管で描写されるカッコウの声と柔らかなソプラノとの掛け合いが夢見るように美しく響きます。
このクラグの詩、同じノルウェーの作曲家シンディングもメロディを付けていてこちらも素敵です。これはNaxosのシンディング歌曲集で聴けますのでぜひ聴き比べてみてください。
( 2007.05.05 藤井宏行 )