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Fra Monte Pincio   Op.39-1  
  6 Romancer
モンテ・ピンチョから  
     6つのロマンス

詩: ビョルンソン (Bjørnstjerne Bjørnson,1832-1910) ノルウェー
    Samlede Digte I - 1851-1870  Fra Monte Pincio

曲: グリーグ (Edvard Grieg,1843-1907) ノルウェー   歌詞言語: ノルウェー語


Aftenen kommer,Solen står rød,
farvende Stråler i Rummet henskylle
Lyslængslens Glands i uendelig Fylde;
Fjeldet forklares som Åsyn i Død.

Kuplerne gløde,men længere borte
Tågen langs Markernes blålige Sorte
vugger opover som Glæmselen før,
over hin Dal dækker tusind Års Slør.

Aftnen,hvor rød og varm,
blusser af Folkelarm,
glødende Hornmusik,
Blomster og brune Blik.

Tankerne stræber i Farver og Toner
trofast mod det,som forsoner.


Stille det bliver,end dunklere Blå
Himmelen våger og venter opunder
Fortid som blunder og Fremtid som stunder,
usikre Blus i det rugende Grå.

Men det vil samle sig; Roma fremstige
lystændt en Nat for Italiens Rige,
Klokkerne kime,Kanonerne slå,
Minderne flamme på Fremtidens Blå.

Yndig om Håb og Tro,
op mod Nygifte To,
jubler en Sanger til
Cither og Fløjtespil.

Stærkere Længsler få barnesød Hvile,
mindre tör vägne og smile.

夕暮れがやってきて、太陽は真っ赤だ
空は美しい色に染められている
果てのない空間は光を求めてきらめき
山は死者の顔つきのように浮かび上がる

ドーム屋根は輝いている、はるか遠くで
もやが深緑の草地を包んでいる
忘れ去るかのように地上にたなびき
谷間を千年のヴェールで覆う

夕暮れはとても赤くまた暖かく
人々の賑わいを照らしている
輝かしいホルンの音楽
花々そして茶色の瞳

思いは色彩と楽の音に掻き立てられて
清らかなるものに忠誠を誓う


あたりは静まり 暗い青色の
空は目を凝らし待ち受ける
まどろみ行く過去と これから来る未来を
重苦しい灰色の中に弱々しい炎が!

けれども炎はひとつになり ローマが生まれ
ある夜イタリアの国に灯をともす
鐘が鳴り響き 大砲がとどろき
青い未来の中思い出が炎と燃える

希望と信仰の歌を
新婚のふたりに捧げよう
歌い手は喜びを歌う
ツィターと笛の音に合わせて

熱烈な願いは子供のように眠り
もっと穏やかな望みが目覚め微笑む



グリーグとイタリア、という結びつきはあまりイメージしにくいところではありますが、彼は何回となくイタリアを訪れています。そしてそれはノルウェーの文豪ビヨルンソンも同様。寒い北欧の人たちは冬のイタリアやスペインという土地には強いあこがれを持っているようですね。もっともロシアの人ほどにはイタリア風やスペイン風の音楽はたくさんは書いてはいないようですけれども。
さてそんな中でグリーグがイタリアはローマのピンチョの丘の情景を描写したこの歌曲、グリーグの歌曲にしては珍しくスケールの大きな曲でちょっと異色なのではありますが、彼の代表作としてよく取り上げられます。彼自身の手になるオーケストラ伴奏のものもあり、ソルヴェイグの歌などと一緒にオーケストラコンサートのプログラムにもしばしば乗ることもあるようです。またそれもあってオーケストラ伴奏で彼の歌曲を録音しているものがあれば必ずと言ってよいほど取り上げられており、フラグスタートやニルソンなどのドラマティックな歌を聴くことができます。

この曲は冒頭の静かな夕暮れの情景(ピンチョの丘からの夕暮れは有名な観光スポットなのだとか)がやがて人々の喧騒の中に響く軽快なサルタレロのダンスのリズムへと、そして再びたそがれの情景へと戻ります。そこでともるひとつの灯、これは各地がばらばらで諸外国の影響下・支配下にあったイタリアがひとつの国として建国されることの象徴なのでしょう。ちょうど詩人のビヨルンソンが初めてイタリアを訪れた1860年はイタリアの統一が始まりつつあった頃。1861年にイタリア王国が成立します。そしてグリーグが曲を付けたとされる1870年はまさにこのローマからフランス軍が撃退され、ここが首都としてイタリアの統一が成し遂げられようとした時期です。
そしてまた彼らの故国ノルウェーもちょうど当時はスウェーデンとの連合王国ということで、ちょうど現在のイギリスにおけるスコットランドみたいな立場に置かれていました。国民国家としての独立がヨーロッパの各地で悲願であったこの頃。詩人にも音楽家にもこのイタリアの統一はきっと心に響く歴史的瞬間だったのかも知れません。
ここで歌われる新婚のカップルは、まさに統合されたローマとイタリア全土のイメージがします。

ビョルンソンの詩は4連からなるもう少し長いものですが、グリーグはそこから最初と最後を取り出して曲を付けています。より正確には最初の節の最後の2行は「歴史上の人物の彫像がまわりに待ち受けている」というような内容なのですが、ここだけをグリーグは第2連の対応する部分に差し替えて「思いは色彩と楽の音に掻き立てられて 清らかなるものに忠誠を誓う」となっています。あといくつか原詩で使われている言葉を変えているようですがそこは調べ切れませんでした。ここに掲載しているのが歌われる詞になっていない可能性もありますのでご注意ください。

( 2007.05.01 藤井宏行 )


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