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在那遥遠的地方    
 
遥か遠いところに(草原情歌)  
    

詩: 王洛賓 (Wang Luobin,1913-1996) 中国
      

曲: 王洛賓 (Wang Luobin,1913-1996) 中国   歌詞言語: 中国語


詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
はるか彼方の遠いところ
ひとりの素敵な娘がいる
その娘のテントのそばを人が通るとき
みな恋してもう一度振り返って見たくなる

ほんのり赤らんだその娘の笑顔は
まるで真っ赤な太陽のよう
心動かすきれいな瞳は
夜空に輝く月のよう

ぼくは財産をみななげうって
あの娘と羊を追いかけたい
毎日その紅い笑顔と
かわいいピカピカの服を眺めていたい

ぼくは一匹の子羊になって
あの娘のあとをついて行きたい
あの娘が手に持つ皮の鞭で
いつも優しくぶたれていたい


日本では「草原情歌」というタイトルで広く知られた作品、中国も中央アジアに近い青海省の民謡と長いこと言われていましたが、実はそんなに昔の作品でないことが比較的最近明らかになったようです。3〜4年前に日本で大ブームを呼び起こした女子十二楽房がこの作品などを良く取り上げていた関係でかなり知られるようになってきてはいるようですが、王洛賓(ワン・ルーピン 1913-1996)という北京生まれの作曲家&民族音楽研究家が1939年(1941年という説も)にカザフスタンの民謡「潔白的前額」をアレンジして作詞作曲したのがこの原曲「在那遥遠的地方」です。
この王洛賓、カザフやウイグルなど西域民族の音楽を取り入れた民謡風の歌曲を生涯に1000曲近くも書いており、「中国民謡の王様」だとか「西域の歌曲王」とも呼ばれているのだそうで、日本で言えばさだめし中山晋平のような人になるでしょうか。
日本でも彼の作品ではこの他、「阿拉木汗(アラムハン)」や「在銀色的月光下(銀色の月光の下で)」などの曲はご存知の方もおられるでしょう。エキゾチックなメロディが今でも多くの中国人の心を惹いているのは、日本人でも沖縄の音楽がなぜか異様に人気が高いのとも通じるようなところがあるかも知れません。

発表に際し彼が名前を出さなかったのと、文化大革命の頃には反革命罪で投獄されていたということもあったようで、彼の作曲の全貌が分かってきたのは1980年代半ば、その頃に初めてこの曲も彼の作品と認知されたようです。従ってまだ多くの楽譜や資料では青海省民謡となっていますし、民謡だろうと思って安心してMIDIを作られて公開されている方も日本ではまだ多くおられるようです。ですがJASRACのデータベースでは現在ちゃんと作曲者の名はクレジットされていますから気を付けた方が良いのではないでしょうか。
私の方もどうしようか悩んだのですが、ちゃんとした翻訳がネット上にないこともあり、自分で訳を試みたもののみをUPすることにしました。原詞を載せると言い逃れの効かない著作権法違反になりますのでそれはやめます(また勝手に訳すな、というお叱りも著作権者からくる可能性はございますので、その際にはこの訳も削除いたしますがご了承を)。なお原詞をご覧になりたい方はこちらをご覧ください。

http://japanese.cri.cn/1/2004/09/03/1@26022.htm

北京放送の日本向けネットラジオの記事です。なおここでは原詞を見るだけでなく歌もMP3で聴くことができます。音楽を聴かれておやっと思われる方もおられるかと思いますが、このメロディ、日本で広く流布しているものとちょっと違います。日本で知られたものはかなり東洋風になっていますが、王の書いた原曲はもっとペルシャやトルコに近い感じの雰囲気。
日本国内で歌い継がれていくうちに崩れてきたのでしょうか。
調べてみるとこの曲、昭和28年頃に台湾からの留学生・劉俊南氏が日本語に訳して歌っていたものが歌声喫茶を通じて広まっていったものなのだそうです。余談ですがこの劉俊南氏、その後もずっと日本に留まり東京の華僑団体の重職なども勤められたようです。
日本語の詞はこの劉氏と、青木梓という人の連名でなされているものが最も良く知られているようですが、それを調べていただくとお分かりのように原詞にたいへん忠実なたいへん良くできた訳です。
きれいな遊牧民の女の子にメロメロになって、果たせぬ思いを呟く少年、最後はちょっとSMが入っていますが、実はこれにも作者自身のエピソードがあるようです。上と同じ北京放送のネットラジオからの情報ですが、王洛賓が中国の有名な映画監督・鄭君里に同行して青海に行ったときに、映画の中で美しい羊飼いの娘を演じたチベット族の女性が、撮影の合間にふざけて彼を軽く鞭で叩いて笑いながら行ってしまった、というエピソードがあるのだそうで、それがこの4番の歌詞に繋がっているのでしょう。

オリジナルのメロディは中国の歌手ならいろんな方が歌っています。もっともクラシカルなスタイルで私に好ましかったのはソプラノの崔岩光さんの録音した中国歌曲集(King)。ニ胡や琵琶などの民族楽器も美しく、ひそやかにこの音楽を紡ぎ出しています。多くのポピュラー歌手によって取り上げられたものは歌はともかく、シンセサイザーなんかで伴奏を妙にこってりとしてしまったものが多く、まだこれは、という歌にはめぐり合っておりません。

日本風にアレンジされたバージョンでは、私くらいの世代には懐かしい「おかあさんといっしょ」で幼児とヨガのダンス「はい ポーズ」をやっていた馮智英さんが「みんなの歌」で1980年代に歌ったものが印象に残っています。こちらも有名だと思うわりにはこれはという録音が思い当たらないのが不思議です。

( 2007.03.24 藤井宏行 )


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