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Liederseelen    
 
歌の精  
    

詩: マイヤー (Conrad Ferdinand Meyer,1825-1898) スイス
    Gedichte: I. Vorsaal  Liederseelen

曲: ケンプ (Wilhelm Kempf,1895-1991) ドイツ   歌詞言語: ドイツ語


In der Nacht,die die Bäume mit Blüten deckt,
Ward ich von süßen Gespenstern erschreckt,
Ein Reigen schwang im Garten sich,
Den ich mit leisem Fuß beschlich;
Wie zarter Elfen Chor im Ring
Ein weißer lebendiger Schimmer ging.
Die Schemen hab ich keck befragt:
Wer seid ihr,luftige Wesen? Sagt!

“Ich bin ein Wölkchen,gespiegelt im See.”
“Ich bin eine Reihe von Stapfen im Schnee.”
“Ich bin ein Seufzer gen Himmel empor!”
“Ich bin ein Geheimnis,geflüstert ins Ohr!”
“Ich bin ein frommes,gestorbenes Kind.”
“Ich bin ein üppiges Blumengewind -”
“Und die du wählst,und der's beschied
Die Gunst der Stunde,die wird ein Lied.”

樹が花に被われたとある夜
愛らしい幻影が現れて私を驚かせた
それは庭で輪舞を踊りはじめ
私は忍び足で近づいた;
なんとも可憐な妖精の合唱隊が輪となり
白く、生き生きとまたたき光る
私は思い切って幻に訊ねた:
君らはだれだ? 大気の精なのか? 教えてくれ!

「私は湖面に映る千切れ雲」
「私は雪原に印された足跡」
「私は天上に昇る悲歎!」
「私は耳に囁かれた秘密!」
「私は天に召された敬虔な子」
「私は華麗な花飾り・・・」
「それらをあなたが選び、時の恵みを
与えられて、ひとつの歌となるのです」


名ピアニストとして著名なヴィルヘルム・ケンプは作曲家でもあり、交響曲、協奏曲、室内楽、ピアノ曲、声楽曲と、あらゆるジャンルに多くの作品を残しており、フルトヴェングラーなどにより上演もされていたようです。歌曲はなんと百曲以上に上るそうで、詳細は不明ですが、調べてみたところケンプにはマイヤーの詩による歌曲が少なくとも9曲あり、少なくとも6曲は出版もされています。

 1. Der römische Brunnen Op.50 Nr.2
 2. Jetzt rede du Op.52 Nr.3
 3. Alle,Op. 52 Nr.6
 4. Unter den Sternen Op.53 Nr.1
 5. Neujahrsglocken Op.53 Nr.4
 6. Der Gesang des Meeres Op.53 Nr.6
 7. In einer Sturmnacht,Op. 55 Nr.1
 8. Lederseelen,Op. 56 Nr.1
 9. Auf dem Canal grande Op.56 Nr.6

そのうち4曲をフィッシャー=ディースカウが録音しており、これは彼の「名演奏家の歌曲」と題する、アドルフ・ブッシュ、エンリコ・マイナルディ、フェルッチョ・ブゾーニらの歌曲を収めた60年代のLPに収録されていましたが、現在ケンプの作品のみタワーレコードの製作した復刻盤により安価で入手可能です。(タワーレコード  ヴィンテージ・コレクション No.6 / PROA-20)
 ケンプの自叙伝『鳴り響く星のものとに』(土田修代訳:白水社)には、若き日のケンプがフェルッチョ・ブゾーニと会見した折、ブゾーニが会話の中にマイヤーの「今度は君よ語れ!」の題名を引用し、そのことに後日気がついたというエピソードが紹介されています(同書250p)。そんなこともありケンプはマイヤーに愛着を抱くようになったのかもしれません。とまれ、フィッシャー=ディースカウが、ケンプの歌曲からマイヤーの詩によるもののみを取り上げたのが、作曲者の希望によることなのかは不明ですが、作例の少ないマイヤー歌曲だけに大変貴重な録音となっています。
 さて肝心の作品です。ピアノによる軽やかな前奏はまるでピアノ小品が始まったようですが、いかにもピアニストの作曲による歌曲という感じです。後半の妖精たちの台詞につけられた伴奏がいかにも説明的なのがやや気になり、同じ詩に作曲された オトマール・シェックの歌曲(別項)の巧妙なさりげなさに一籌を輸するといったところでしょうか。とは言え、名ピアニストの珍しい歌曲を、大歌手と作曲者の伴奏で聴ける楽しみは格別です。
なお、このタワーレコードのCD冒頭には、ケンプが広島世界平和記念堂でオルガンを演奏した時の実況録音も入っているのですが、その始めに平和祈念堂の鐘の音が収録されており、C.F.マイヤーの詩に頻出する鐘の音が、彼の詩の歌曲と共に聴けるという、非常に不思議な縁のあるCDとなっています。
また完全な余談になりますが、今回同時に投稿したロシア民謡を映画「ノスタルジア」に使っている監督タルコフスキーが、「惑星ソラリス」のタイトルに使っている、バッハ:オルゲルビヒュラインMBV639「主イエス・キリストよ、われ汝を呼ばわる』がその鐘の後で演奏されています。おそらく全くの偶然ではありますが、二人が同曲集の数多くの曲からこの曲を選んだことには興味を覚えます。

( 2007.02.27 甲斐貴也 )


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