To brune Øjne Op.5-1 Hjertets Melodier |
茶色のふたつの瞳 心のメロディ |
To brune Øjne jeg nylig så i dem mit Hjem og min Verden lå. Der flammed' Snillet og Barnets Fred; jeg glemmer dem aldrig i Evighed! |
茶色のふたつの瞳を最近見た その中にはぼくの故郷が、ぼくの世界があり そこには叡智が、子供の安らぎが燃え立っている ぼくは永遠にこの瞳を忘れることはないだろう |
1864年、まだ新進作曲家であったグリーグはソプラノ歌手ニーナ・ハーゲルップ(1845-1935)と婚約します。このときにデンマークの詩人&作家のハンス・クリスチャン・アンデルセンの抒情詩4編に曲を付けたのがこの「心のメロディ Hjertets Melodier」です。ちょうどクララ・ヴィークと婚約したシューマンが恋の歌曲を山のように書いた1840年「歌の年」のグリーグ版とでもいえましょうか。この第3曲が恐らくグリーグの歌曲の中でも最も有名な「君を愛す」ですが、その次に良く取り上げられるのがこの第1曲です。
シューマンの影響をまだ脱しきれていないのか、非常にドイツリート色の強い歌曲ではありますが、ささやかな愛の告白といった感じがなかなか好ましく、押し付けがましいところがなくもない「君を愛す」と好対照をなしています。ピアノの跳びはねるようなリズムが印象的。
彼女を生涯の伴侶としたお蔭か、その後のグリーグは100曲を越える歌曲を書いており北欧歌曲の一大財産となっています。その意味でもこの「心のメロディ」は記念すべき作品でしょう。
なお「心のメロディ Hjertets Melodier」というタイトルはアンデルセンの元の詩でも付けられており、この詩を含む8篇の詩にまとめて付けられたタイトルです。この詩はその第1篇目で、まさに初めての出会いのときめきを表しているようです。
また興味深いのは、アンデルセンの「心のメロディの最初にはゲーテの詩からの引用があり、これはこんな風なものです。
Himmelhoch jauchzend,
Zum Tode betrübt,
Glücklich allein
Ist die Seele,die liebt.
Göthe
天の高みに歓声を上げる
憂鬱な死に向かって
喜びがただひとり
魂にはある、愛が
ゲーテ
これはベートーヴェンの劇音楽付曲でも有名な戯曲「エグモント」より第3幕、エグモント伯爵の恋人クレールヒェンが歌う歌の一節です。この詩にはベートーヴェンだけでなくシューベルトやレーヴェなどドイツ歌曲の大御所によって多くのメロディが付けられていますのでお馴染みのところでしょうか。愛することの喜びと苦しみの対比をしみじみと語っています。
( 2007.01.27 藤井宏行 )