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Solveigs sang   Op.23  
  Peer Gynt
ソルヴェイグの歌  
     劇音楽 ペールギュント

詩: イプセン (Henrik Ibsen,1828-1906) ノルウェー
    Peer Gynt (1867)  Solveigs sang

曲: グリーグ (Edvard Grieg,1843-1907) ノルウェー   歌詞言語: ノルウェー語


Kanske vil der gå både Vinter og Vår,
og næste Sommer med,og det hele År,
men engang vil du komme,det ved jeg vist,
og jeg skal nok vente,for det lovte jeg sidst.

Ah


Gud styrke dig,hvor du i Verden går,
Gud glæde dig,hvis du for hans Fodskammel står.
Her skal jeg vente til du kommer igjen;
og venter du hist oppe,vi træffes der,min Ven!

Ah


たぶんまた過ぎ去るの 冬も春も
そして次の夏も、こうして一年が終わる
でもあなたはいつか私の元へ戻る、私は分かっているの
だから私は待つわ、あなたと約束したように

ああ


神様は守ってくれる、あなたがどこに行こうとも
神様は祝福してくれる、あなたが御許にひざまずけば
私はここで待つわ、あなたの帰る日まで
もしあなたが天国で待つなら、そこで会いましょう、愛しい人!

ああ


グリーグの作品中ではピアノ協奏曲と並んで最も有名な、ヘンリク・イブセンの戯曲に付けた劇音楽「ペール・ギュント」、奔放に、というかワガママに?生きる主人公ペールをひたすら待ち続けるソルヴェイグ(正式に発音するとソルーヴェイの方が近いらしいです)の悲しくも美しい歌がこれです。古今東西女性歌手には好んで歌われるナンバーで、日本でも一昨年亡くなられた本田美奈子さんが岩谷時子作の詞で入れていたものを聴かれた方もあるのでは。これは日本語の歌詞や編曲のスタイルに私にはちょっと違和感がありましたが、けっこう感動的なうたではありました。他に日本の歌手でも増田いずみさんや米良美一さん!までほんとうに多彩なラインナップで聴くことができます。
西欧でもフラグスタートやニルソンといった北欧出身の大歌手から、シュヴァルツコップやぜーフリートといったドイツの大御所まで幅広く吹き込んでいますし、ピアノ伴奏のグリーグ歌曲集の中にもよく収録されていたりするのですが、今回集中的に取り上げようと思ったのは劇音楽の全曲やハイライトとして纏められた録音の中で歌われているこの歌。「名曲名盤XX選」とかいう某社の雑誌でよくやる特集でも「ペールギュント」に関しては組曲版か、あるいは抜粋版を取り上げていても指揮者とオーケストラのことばかり言及されていてほとんど省みられることはないように思うのですけれども、この曲、けっこう凄い歌手たちを起用して録音されていることが多いので聴き比べてみると面白いのです。


  バーバラ・ボニー:ネーメ・ヤルヴィ指揮エーテボリ管(DG)
  シルヴィア・マクネアー:ジェフリー・テイト指揮ベルリンフィル(EMI)
  エリー・アメリンク:エド・デ・ワールト指揮サンフランシスコ響(Philips)
  バーバラ・ヘンドリックス:エサ・ペッカ・サロネン指揮オスロフィル(Sony)
  ルチア・ポップ:ネヴィル・マリナー指揮アカデミー室内管(EMI)

ポップの歌っているマリナー盤だけは手に入りませんでしたが、彼女の歌うこの歌を収録している彼女のベスト盤(Disky)でここだけは聴けましたので以下に比較試聴をば。

ボニー盤:某誌でも高く評価されペール・ギュントの定盤になっている盤でしょうか。本場のオーケストラのくすんだ音色にまだ新進歌手だった彼女の清楚な声が微妙なコントラストを示して実に美しい演奏です。ただ個人的にヘソまがりな私には他の盤の方が好みだったりします。彼女の歌を初々しいと取るか、ちょっとまだ硬さがあると聴くかで評価が違ってくるところでしょうか...

マクネアー盤:たいへんゆっくりとしたテンポでしっとりと歌います。「ああー」のヴォカリーズの最後のところなど実に美しい。貫禄という点でも技量という点でも今回聴いた5点の中でもずば抜けた歌唱ではないでしょうか。劇音楽は抜粋盤ですが普通取り上げられる第4幕の部分だけでなく、ペールが戻る直前の第5幕のシーンでのこの歌も収録してくれている(つまり2回聴ける)のも嬉しいところです。テイト/ベルリンPOの演奏も貫禄。ちょっと歌も含め垢抜け、立派すぎる感もありますが...

アメリンク盤:爽やかな演奏とでも言えばよいでしょうか。どちらかというとこの歌よりも終曲の「ソルヴェイグの子守唄」の方がこのスタイルにはよりしっくりしています。サンフランシスコ響といえばこの後にブロムシュテットの指揮で同じ曲の(ほぼ)全曲盤を録音しており、そちらの方が収録曲が多かったりしてこの盤は冷遇されているような感もありますが、アメリンクの歌のスタイルにピッタリの爽快さが美しいです。ブロムシュテット盤ではBluebellでアルヴェーン歌曲集を歌っていたスウェーデンのソプラノ、ヘッガンデルを起用してこれはこれで健闘していましたが、アメリンクと比較しては酷というものでしょうか。アメリンクはもっと若い頃にも録音していた記憶があるのですが(ロッテルダムフィルかどこかと)、ちょっと思い出せませんでした。

ヘンドリックス盤:意外と彼女は北欧歌曲をたくさん録音していたりするのですが(現在はスウェーデン在住なのだとか)、偏見かも知れませんけれどもちょっと濃密さが強すぎる感じ。この曲に見え隠れする演歌調の「耐え忍ぶ女」的な感じは一番よく出ていて面白いですけれどもちょっと好みが分かれるかも。サロネン/オスロPOの演奏もメリハリが効いていて良いのですが、録音のせいかあるいはオーケストラのせいか色彩感にちょっと乏しく聴こえてしまいます。まあ北欧の音楽自体あんまりカラフルに演奏するようなものでもなさそうなのでこれはこれでいいのかも。今回聴き比べた中では一番異色でしたが、それだけにインパクトがあります。

ポップ盤:個人的には彼女の歌声がソルヴェイグの歌には一番ハマっているように思えます。マリナーの伴奏もたいへんメリハリが効いて楽しいです。残念ながらドイツ語訳による歌唱のようですけれども私はそんなに気になりませんでした。ほんのりとした温かみがこの曲を包んでなかなか素晴らしいです。
ワガママな私が甘えるとしたらやっぱりこのキャラクターの声かなあ。彼女が早くに亡くなってしまったのは大変に惜しまれます。


対訳でもけっこういい加減なものが散見されましたので、できるだけノルウェー語に忠実に訳す努力だけはしてみました。もっとも付け焼刃の語学勉強ではどこまで忠実なのだか...
まあそれほど難しい詩でもありませんので、大きな間違いはないと思います。
なお最後の呼びかけのVenというのは英語でいうとFrendにあたりますので、直訳すると「我が友よ!」になりますが、日本でダンナを「友よ」と呼ぶ人はいないと思いますので「愛しい人」としています。

戯曲では第4幕の10場、夏の日にヤギを見張りながら表で糸を紡いでいる中年になったソルヴェイグがひとり歌う歌です。曲だけ聴くと冬の感じがするのですが、そこでの情景は穏やかな北欧の夏なのですね。それだけに寂しさが一層つのってきます。
しかも第4幕は、ペールがアフリカでやりたい放題やっている(ここに限らずどこにいてもやりたい放題ではあるのですが...)シーンが続きますのでそれらとの対比がとても鮮烈なのです。戯曲の解釈によればこれはペールの頭を一瞬よぎった望郷の念の表現だということで、実際の歌もソルヴェイグの女優でなく舞台裏のソプラノ歌手に歌わせるようです。
このソルヴェイグの歌、幕が変わって第5幕、ノルウェーの故郷に戻って来たペールを待っている彼女の小屋でもう一度歌われます。こちらは「ああ」というヴォカリーズの部分がなく、また歌詞も違っています。いずれこちらの訳詞もUPしたいと思っています。

( 2007.01.22 藤井宏行 )


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