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Jetzt rede du!   Op.60-28  
  Das stille Leuchten
今度は君が語ってくれ!  
     歌曲集『静かなる輝き』

詩: マイヤー (Conrad Ferdinand Meyer,1825-1898) スイス
    Gedichte: II. Stunde  Jetzt rede du!

曲: シェック (Othmar Schoeck,1886-1957) スイス   歌詞言語: ドイツ語


Du warest mir ein täglich Wanderziel,
Viellieber Wald,in dumpfen Jugendtagen,
Ich hatte dir geträumten Glücks so viel
Anzuvertraun,so wahren Schmerz zu klagen.

Und wieder such ich dich,du dunkler Hort,
Und deines Wipfelmeers gewaltig Rauschen -
Jetzt rede du! Ich lasse dir das Wort!
Verstummt ist Klag und Jubel. Ich will lauschen.


君は暗鬱な青春の日々に
毎日の散策の地だった、こよなく愛する森よ。
私は夢見た数多の幸福を君に打ち明け
心からの苦しみを訴えた。

そして今再び君を求めている、ほの暗い隠れ家を
梢の海原の轟々たるざわめきを・・・
今度は君が語ってくれ! 言葉は君にやろう!
嘆きも歓びも尽きた。今は耳を傾けたい。

(ピアノ後奏)


マイヤーは青年時代、今で言う「引き籠もり」そのものの苦悩の生活を送っていたのですが、中年以後にそこから脱し、作家として大成しました。その暗い青春時代に慰めとした森を擬人化し、老い衰えた今森の言葉に耳を傾ける。優れた自然抒情詩人としてのマイヤーの感性の源を見る思いのする詩です。
 歌曲集『静かなる輝き』の最後を飾るこの曲では、シェックの作曲がその森となって雄弁に語りかけてきます。すなわち、第2連の後に、ピアノ独奏による音楽だけの第3連があるのです。そこには後のメーリケ歌曲集作品62の『ウーラッハにて』に聞かれるモティーフも現れますが、その曲との、苦悩を癒す森、自然というテーマの共通が思い起こされます。
 シェックは歌曲作曲家の中でも特に詩を大切にし、その歌曲は作曲家による詩の解釈であり、また受容であるとわたしは考えていますが、この歌曲集の最後を締めるこの作品では、それまで詩に寄り添ってきたピアノ=音楽=作曲者が自ら語り始めるという、誠に心憎い趣向です。
 この歌曲集の訳に取り組むきっかけとなった2006年11月の内藤明美&平島誠也リサイタルでもこの曲は、この歌曲集からの10曲のみを演奏したプログラム後半の最後に置かれており、しかもプログラム前半は同じように終曲がピアノ独奏で終わるシューマンの歌曲集『女の愛と生涯』で終えられるという、なんとも素敵な構成になっていました。
 CDで聴くのと実際の演奏会で異なるのは、歌い終えた歌手がステージに立ったまま曲が終わるまで待っているのが見えること。まさにそこに、語ることをやめて耳を傾ける人が立っているのです。『女の愛と生涯』の、夫との死別の詩のあとの、出会いの曲を回想する感動的なピアノ独奏を聴き終えて涙ぐんでいた内藤さんは、「今度は君が語れ!」でも森=音楽の語りかける声に心から耳を傾けているようでした。
 CDでは例によって御大フィッシャー=ディースカウによる初の全曲録音盤(クラーヴェス)と、スイス・イェックリンによる初の歌曲全集中のヘドヴィク・ファスベンダー盤がありますが、実演で聴いた内藤さんの演奏も少なくともH.ファスベンダーには勝るとも劣らぬもので、平島誠也氏と全曲盤を是非録音していただきたいものです。そのわたしにとって記念すべき演奏会の記録を、内藤さんと平島氏、さらに公演プログラムに優れた対訳と解説を執筆された内藤さんの夫君山崎裕視氏に感謝を込めて、ここに記させていただきます。ありがとうございました。

内藤明美リーダーアーベント
2006年11月9日(木)東京オペラシティリサイタルホール

内藤明美(メゾ・ソプラノ)
平島誠也(ピアノ)
プログラム解説・歌詞対訳:山崎裕視

シューマン:ミニヨンの歌(4曲)
同:歌曲集『女の愛と生涯』全曲

(休憩)

シェック:歌曲集「静かな輝き」より
1.ローマの泉
2.宴の終わり
3.新年の鐘
4.旅の盃
5.白い頂
6.それを聞くだろう
7.黒い陰なすカスターニェ
8.レクイエム
9.夕雲
10.今度はお前が語れ

アンコール
シューマン:君は花のよう
シェック:エリーザベト
島原の子守歌

( 2007.01.02 甲斐貴也 )


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