お六娘 |
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橋本国彦にはたくさんの日本民謡風の歌曲がありますが、その中でも最高の傑作がこれではないでしょうか。童謡や唱歌の作詞で知られた林柳波(1892-1974)のユーモラスな詩も面白いですし、そこに才人・橋本の付けたメロディと伴奏の素晴らしいこと。日本民謡風と書きましたがじっくり聴くと他のどこでも聴くことのできない橋本国彦オリジナルの世界が広がっています。「お六娘は 丸顔でござる 花のさかりの はたちでござる」と詩のすべてを「ござる」で飾っている詞に付けたメロディの表情をくるくる変えて、このきれいな娘をナンパしようとあの手この手で頑張る村の若者たちの姿を微笑ましくも描写しています。ピアノに繰り返し現れるおどけたモティーフなども絶妙で、最後はやっぱり駄目でガッカリ、というところの音楽など最高。最後の「月が出てきて 笑ってござる」のあとで往年の名テナー・藤原義江はムソルグスキーの歌曲でボリス・クリストフがよくやっていたみたいに「ワハハハハ」の高笑いを入れて歌を締めています。往年の名歌手たちはこんな風のアドリブも入れて歌を楽しんでいたのだなあ、という感慨もありますが、私はこの藤原の「ワハハ」を聴いたとき、同時に私はこの橋本国彦の日本の音楽と洋楽とをこんな風に溶け合わせて新たな音楽を生み出そうという心意気、そして不遇の中40代の半ばで亡くなったその姿がムソルグスキーとなんだか重なり合ってしまいました。
藤原義江の自在な歌も面白いですが、やはりこんな感じの歌は関定子さんの歌が声の迫力といい、味わいの深さといい何ともいえずいいですね。鮫島有美子さんのものもまた面白いです。伴奏のドイチュ氏との掛け合いの中でこのどっぷりと日本情緒の溢れる歌の中から橋本国彦の埋め込んだ西洋音楽の書法を炙りだしてくれているようで、音楽を素直に楽しむにはちょっと違和感もなくはないのですけれどもとても新鮮なのです。
( 2007.01.01 藤井宏行 )