城ヶ島の雨 |
|
雨はふるふる 城ヶ島の磯に 利休鼠の 雨がふる 雨は真珠か 夜明の霧か それともわたしの 忍び泣き 舟はゆくゆく 通り矢のはなを 濡れて帆あげた ぬしの舟 ええ 舟は櫓でやる 櫓は唄でやる 唄は船頭さんの 心意気 雨はふるふる 日はうす曇る 舟はゆくゆく 帆がかすむ |
|
この有名な白秋の詩に付けた曲では、1913年に梁田貞が付けた作品が非常に良く知られていますが、他にも何人かの作曲家が取り上げていて、なんとあの山田耕筰のものもあります。こちらは西洋歌曲風にアレンジされていて(ラフマニノフの歌曲を連想してしまいました)梁田作品になじんだ耳には(そして白秋の民謡調の詞に対しても)違和感ばりばりなのですが、けっこう聴いていて面白いです。「ええ 舟は櫓でやる」のところの爆発なんか思わず笑ってしまいました。
ですが、今回取り上げるのはそれではありません。梁田作品を下敷きにしているのでしょう、曲想の展開とかがそっくりなのがちょっとなんですが、1928年の橋本国彦作品です。関定子さんの橋本国彦歌曲集のCDの冒頭で宗方律さんのフルートのオブリガードが何とも言えず味わい深い日本情緒を出しているのが印象的だったので取り上げてみたくなりました。詞は去っていく恋人をどんよりとした利休鼠色(灰色がかった緑色)の小糠雨の中を見送っているのですから梁田メロディのようにマイナーになるべきところ、この曲に橋本が付けたのは山田耕筰が「かやの木山に」で使ったのにそっくりなユーモラスなメロディです。また「舟は櫓でやる」のところでは軽快にリズミカルな音楽で飛び跳ねるようなフルートと絶妙な掛け合いをして実にいい。なんだかお正月の定番、宮城道雄の「春の海」を歌曲にしたような味わいがなかなか素晴らしいです。梁田作品のような傑作のあとで作るならどんなものにしなければならないかを、まだ20代前半の橋本は熟知していたのでしょうね。とにかく印象的な作品になりました。
梁田貞作品をよくご存知の方はぜひ聴いてみてください。けっこう気に入られるのではないかと思います。
関さんの声とフルートの掛け合いの響きの見事さ。ドニゼッティ「ルチア」狂乱の場の日本版とも言えるようなフルートとソプラノの美しい掛け合いです。
( 2007.01.01 藤井宏行 )