Noël des jouets M.47 |
おもちゃのクリスマス |
Le troupeau verni des moutons Roule en tumulte vers la crêche Les lapins tambours,brefs et rêches, Couvrent leurs aigres mirlitons. Vierge Marie,en crinoline. Ses yeux d'émail sans cesse ouverts, En attendant Bonhomme hiver Veille Jésus qui se dodine Car,près de là,sous un sapin, Furtif,emmitoufflé dans l'ombre Du bois,Belzébuth,le chien sombre, Guette l'Enfant de sucre peint. Mais les beaux anges incassables Suspendus par des fils d'archal Du haut de l'arbuste hiémal Assurent la paix des étables. Et leur vol de clinquant vermeil Qui cliquette en bruits symétriques S'accorde au bétail mécanique Dont la voix grêle bêle: “Noël! Noël! Noël!” |
ニスでピカピカの羊の群れが 転げるようにエサ箱へ突進してる ウサギたちは太鼓を叩く、ぶっきらぼうにやかましく、 自分たちの笛の音すら打ち消すほどに。 聖母マリア様はクリノリンのスカート エナメルの瞳をじっと見開いて 冬の雪だるまをじっと待ちながら うとうとしているイエスさまを見守ってる なぜって、すぐ近くの、もみの木の下 ねらってるんだ、暗がりに隠れて この木の陰に、悪魔ベルゼブブ、陰気な犬が 砂糖でできたこの御子をさらおうとしてる。 でも綺麗で丈夫にできた天使たちが 真鍮の針金に吊るされて 低い木でできた空のてっぺんで この厩の平安を守ってる 天使たちの赤いホイルが飛びまわり その重りが均整の取れた音を立てる様子は この機械仕掛けの動物たちにぴったりだ こいつらは氷のような声で歌ってる 「ノエル、ノエル、ノエル」と |
クリスマスの歌曲としてモーリス・ラヴェルもまた個性的な曲を1曲書いています(1905)。
これは詩も作曲者自身の手になるもののようですが、彼の人工的な美を最大限に極めようという狙いでしょうか。テーマは機械仕掛けのおもちゃ、クリスマスツリーの下でギクシャクと動き回っているからくり人形たちの大騒ぎを彼お得意の精緻で美しい音楽に乗せて歌います。彼の魅力的なオペラ「子供と魔法」を思わせるようなメルヘンティックな味わいもあってとても素晴らしいのですが、ラヴェルの歌曲自体がごく一部の超有名曲を除くとほとんど取り上げられないからでしょうか。ほとんど知られざる作品になってしまっています。
冒頭のテカテカとニスが光る羊たちがギシギシとひしめきあいやかましく太鼓を叩くウサギたちのところ、ピアノはまるでオルゴールのようにきらめきます。聖母マリア様はエナメルの瞳、とありますし陶器の人形でしょうか。なおクリノリンというのは傘みたいに骨を入れて大きく膨らませたスカート。17・18世紀にはやっていた女性の衣装です。その御子イエスは砂糖のお菓子でできている人形...
Bonhomme hiverというのがよく分からなかったのですが(直訳すると「冬の気のいいおじさん」、フランス語で雪だるまのことをBonhomme de neigeというようですのでたぶん雪だるまであろうと解釈しました)
隠れている悪魔の描写のところは音楽が暗く沈みますが、またクリスマスツリーにぶら下げられたオーナメントの天使たちはが登場するところで音楽は晴れやかになります。その下のおもりがあちこちとぶつかってきれいな音を立てているのでしょう。bruits symétriques(シンメトリックな騒音)という言い回しが面白いです。
最後の「ノエル(クリスマス)」を叫ぶ部分は、同じ作曲家の傑作「マメール・ロワ」の終曲の盛り上がりを思わせる美しさ。思わず息を飲んでしまいました。
当時は電子音でピコピコなるような玩具はなかったのですが、そんな人工的な美しさがしてなんとも面白い作品です。氷のような歌声の「ノエル(クリスマス)」、でもロボットのちょっとした機械的な動きの中にも人間的なものを感じるみたいに何となく微笑んでしまうような温もりを感じます。
残念ながら私はEMIにある歌曲全集でフェリシティ・ロットが歌ったものしか耳にしたことはありません。彼女の声はこの手の歌には打ってつけのはまり方なのでこれはこれで文句の付けようはないのですが、もっと多くの方に取り上げて貰ってもいい歌なのになあ、と思います。ドビュッシーの「もう家のない子のクリスマス」なんかは(いい曲ですけど)あまりクリスマスコンサートのアンコールなんかには向きませんが、この曲は絶妙のセレクションではないでしょうか。
( 2006.12.22 藤井宏行 )