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Ich würde es hören   Op.60-22  
  Das stille Leuchten
私は聞くだろう  
     歌曲集『静かなる輝き』

詩: マイヤー (Conrad Ferdinand Meyer,1825-1898) スイス
    Gedichte: III. In den Bergen  Ich würd es hören

曲: シェック (Othmar Schoeck,1886-1957) スイス   歌詞言語: ドイツ語


Läg dort ich unterm Firneschein
auf hoher Alp begraben,
ich schliefe mitten im Juchhein
der wilden Hirtenknaben.

Wo sonst ich lag im süßen Tag,
läg ich in dunkeln Decken,
der laue Krach und dumpfer Schlag,
er würde mich nicht wecken.

Und käme schwarzer Sturm gerauscht
und schüttelte die Tannen,
er führe,von mir unbelauscht,
vorüber und von dannen.

Doch klänge sanfter Glockenchor,
ich ließe mich wohl stören
und lauscht ein Weilchen gern empor,
das Herdgeläut zu hören.

もし私がアルプスの高原の
万年雪の下に埋葬されたなら
私は素朴な牧童たちの
かけ声の中で眠ることになるだろう

かつて心地よい日中に寝そべった所で
暗闇の毛布にくるまって横たわり
雪崩の轟きもくぐもった雷鳴も
私を目覚めさせはしないだろう

そして闇夜に嵐がどよめいて
樅の木を揺さぶっても
私には聞こえぬままに
過ぎ去ってしまうことだろう

だが羊鈴の優しい合唱が響いて来たなら
私はきっと眠りを妨げられて
喜び仰ぎしばし耳を澄ますだろう
群れなす響きを聞くために


アルプスの高原に埋葬されることを夢見る詩。冷たい土の下の詩人は、もはや万年雪の光を見ることもなく、牧童の掛け声や雪崩、雷鳴、嵐の音を聞くこともありませんが、家畜たちの穏やかな鈴の音には喜んで耳を傾けるだろうという、マイヤーのその音への愛着と、音、響きへの鋭い感性、そして安らかな死への憧れが窺われる詩です。
穏やかで神秘的な雰囲気を生み出すピアノ伴奏、朗唱風の語りかける歌による作品は、シェックによる詩の優れた「読み」であると感じられます。演奏はフィッシャー=ディースカウ(クラーヴェス)が素晴らしいですが、落ち着いた響きのメゾによるヘドヴィク・ファスベンダー(イエックリン)もいい感じです。余談ですが、ヘドヴィク(ヘドヴィッヒではない)という珍しい女性名、「ハリー・ポッター」に出てくる伝書フクロウの名にもなっています。あのフクロウはメスなのでしょうか。

さて、今回から新たな参考文献が加わりました。新妻篤訳注『マイヤー名詩選』(大學書林1971絶版)です。何の変哲もない大學書林の対訳シリーズの一冊ですが、何故かマイヤーのものは古書店では非常に入手困難で、図書館でも都内には国会図書館にしかなく、休日をつぶして閲覧してきました。マイヤーの訳詩集には他に高安国世訳『マイヤァ抒情詩集』(岩波文庫1951)があり、古書は比較的入手しやすいですがかなり古めかしいので(戦前出版の再版?)、収録作は多くないものの、原詩及び詳細な註のついた『マイヤー名詩選』の入手難は残念です。なお大学の図書館にはいくつか所蔵している所があります。

( 2006.12.20 甲斐貴也 )


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