La mort des amants L 64 Cinq Poèmes de Baudelaire |
恋人たちの死 ボードレールの5つの詩 |
Nous aurons des lits pleins d'odeurs légères, Des divans profonds comme des tombeaux; Et d'étranges fleurs sur des étagères, Ecloses pour nous sous des cieux plus beaux, Usant à l'envi leurs chaleurs dernières; Nos deux coeurs seront deux vastes flambeaux, Qui réfléchiront leurs doubles lumières Dans nos deux esprits,ces miroirs jumeaux. Un soir fait de rose et de bleu mystique Nous échangerons un éclair unique, Comme un long sanglot tout chargé d'adieu, Et plus tard un ange,entrouvrant les portes, Viendra ranimer,fidèle et joyeux, Les miroirs ternis et les flammes mortes. |
ぼくたちは柔らかな香りに満たされたベッドと 墓穴のように深い長椅子を用意しよう そして棚には不思議な花を ひときわ美しい空の下でぼくたちのために咲いた花を飾ろう 最後の情熱を競い合わせながら ぼくらの二つの心は二つの大きな炎となる そいつは互いを照らし合うだろう ぼくら二人の魂の二対の鏡となって バラ色と神秘的な青い色の夕暮れに ぼくらはただ一度の閃光を交わすのだ 長いすすり泣きのように、すべては別れへとつながる そのあとには天使が、ドアを半分だけ開けて 入ってきて甦らせるのだ、誠実に、そして楽しそうに 曇ってしまった鏡と、消えてしまった炎を |
ボードレールの「悪の華 Fleurs du mal」には、「死 La Mort」という題名のついたセクションがあります。ここには「芸術家の死」や「貧しき者の死」などがある中で、ドビュッシーが取り上げたのがこの「恋人たちの死」、この音楽は解説などでよくワーグナー風、といったことを言われるのですが、そこでどなたもが連想されるのはやはり楽劇「トリスタンとイゾルデ」でしょう。ここでは「死」とはあっても心中とか情死ではなくて愛し合う営みの中でのエクスタシーという感じですね。もっと露骨に訳すこともできそうな気もしますが(その方がボードレールらしいかも?)、まあこの程度の隠喩でも何を表しているのかは経験豊富な皆様にはよくお分かりかと思いますので、あまり凝らずに素直に訳しました。
ワーグナーの影響を受けたとは言いながら、けっこう可愛らしいメロディです。天使がやってきてせっせとよみがえらせる最後のところなどは思わず微笑んでしまいさえするほどなのですが。
こんな雰囲気の曲はやはりフェリシティ・ロットの歌が巧いでしょうか。ボードレールの詩に付けた歌曲をこのドビュッシーの5曲ばかりでなく、フォーレやデュパルク、更にはセヴラックやシャブリエといったところまで多彩に取り上げていてとても興味深い歌曲集です(Harmonia Mundi)。あとはちょっとお茶目な感じもするドーン・アップショウのものなども好ましいです。
( 2006.12.01 藤井宏行 )