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The Divine Image    
  Ten Blake Songs
神様のイメージ  
     10のブレイク歌曲

詩: ブレイク (William Blake,1757-1827) イギリス
    Songs of Innocence 12 The divine image

曲: ヴォーン=ウィリアムズ (Ralph Vaughan Williams,1872-1958) イギリス   歌詞言語: 英語


To Mercy,Pity,Peace and Love
All pray in their distress;
And to these virtues of delight
Return their thankfulness.

For Mercy,Pity,Peace and Love
Is God,our Father dear,
And Mercy,Pity,Peace and Love
Is man,His child and care.

For Mercy has a human heart,
Pity a human face,
And Love,the human form divine,
And Peace,the human dress.

Then every man,of every clime,
That prays in his distress,
Prays to the human form divine,
Love,Mercy,Pity,Peace.

And all must love the human form,
In heathen,Turk,or Jew;
When Mercy,Love and Pity dwell
There God is dwelling too.

慈悲、憐れみ、平和そして愛を
すべての人は苦しみの中で祈る
そしてこれら喜ばしき美徳に
彼らの感謝を返す

なぜなら慈悲、憐れみ、平和そして愛は
我らが父、神そのものだからだ
そしてまた慈悲、憐れみ、平和そして愛は
神の子、人間そのものでもあるからだ

人の心には慈悲があり
人の顔には憐れみが
愛は人の聖なる姿
そして平和は人のドレスだ

そしてすべての地のすべての者で
苦しみの中で祈りを捧げる者は
人の聖なる姿に対して祈っているのだ
慈悲、憐れみ、平和そして愛に

そしてすべての人は聖なる人の姿を愛さねばならぬ
それがトルコやユダヤの異教徒であっても
そこにも慈悲、憐れみ、平和そして愛が棲み
神様が住んでおられるのだから


ウイリアム・ブレイクの2つの対になる詩集「無垢の歌」と「経験の歌」には、詩の内容としても対応が取れているものがいくつもあります。ヴォーン=ウイリアムスが取り上げた最初の詩の「赤ん坊の喜び Infant Joy」には生まれてくる苦しさを歌った「赤ん坊の悲しみ Infant Sorrow」が、また煙突掃除の少年のことを歌った詩にも、聖なる木曜日(昇天祭)の詩など多くのテーマに無垢と経験の2つのバージョンが並置されています。
そして「人間の姿」を描写した詩にも、ここに掲載しました「The Divine Image」と、ヴォーン=ウイリアムスではこの前の曲として取り上げられている「A Divine Image」が見事な対比を示しています。
こちらで歌われているのは今の世界でもお題目としては掲げられていますが、世界のあちこちで守られていない宗教や信条に拠らず他の人々を愛しましょうという理想。もちろんブレイクもこれが理想にすぎないことはよく分かっているのでしょうが、だからこそ歌わずにはいられない。最後にはまさに今でもイラクやパレスチナで争いや殺戮が続いているキリスト教・イスラム教・ユダヤ教の間でも神の慈悲と愛が満ち溢れているはずだ、とあります。200年も前に書かれたものでありながら今の世にもまだ歌われ、願われ続けなければならないこの理想。何とも悲しいことです。
ブレイクの詩にはこんなものの他にも、人種差別の愚かしさを突いたものや児童虐待の問題、更には子供の教育の問題など、現代にもそのまま通じて様々なことを考えさせてくれる興味深い詩がたくさんあります。ぜひ詩集を手に取ってみて頂ければと思います。
幸せでほのぼのとした詩の多い「無垢の歌」の中ではこの詩はけっこう重たいですけれども、読んでいても大変印象に残ります。
ここでも音楽はアカペラでの敬虔な祈りの音楽。ぐっと感情を抑えて理想の世界を歌います。

( 2006.11.29 藤井宏行 )


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