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Les berceaux   Op.23  
  Trois mélodies
ゆりかご  
     3つのメロディ

詩: シュリュ=プリュドム (René-François Sully-Prudhomme,1839-1907) フランス
    Stances et Poèmes - 1. Stances - 4. Mélanges 16 Le long du quai

曲: フォーレ (Gabriel Fauré,1845-1924) フランス   歌詞言語: フランス語


Le long du Quai,les grands vaisseaux,
Que la houle incline en silence,
Ne prennent pas garde aux berceaux,
Que la main des femmes balance.

Mais viendra le jour des adieux,
Car il faut que les femmes pleurent,
Et que les hommes curieux
Tentent les horizons qui leurrent!

Et ce jour-là les grands vaisseaux,
Fuyant le port qui diminue,
Sentent leur masse retenue
Par l'âme des lointains berceaux.

港に浮かぶ 船の群れは
静かに揺れる 波の間に
女の揺する ゆりかごにゃ
海の男は 目もくれぬ

別れのときは すぐに来る
涙に暮れる 女たち
海の男にゃ 船出が運命(さだめ)
さすらいびとの 性(さが)なのさ

波間を進む 船の群れ
遠く消え行く 港の灯り
捨てた我が子の 揺りかごだけが
海の男の 心残り



フランスの高踏派詩人シュリュ=プリュドムの詩につけた、フォーレの歌曲の中でも比較的有名な作品。悲しげにたゆたうようなメロディが、不幸な赤ん坊をあやしながらひとり嘆いている女の人を見るようで印象的です。ただ今回翻訳してみて感じたのはこれってロマンを求めて海へと旅立つ男とその男を涙で見送る港の女、とまさにニッポンの演歌の典型的な人間像が描かれているのだなあということです。私の知る限りでこれほどまでにド演歌チックな西欧の詩は他にはなく、しかもそれにフォーレが曲を付けているというのが大変に興味深いところです。
ということで曲のイメージとはたいへんなミスマッチなのですが、たまにはこんなのも良いだろうということでこの訳は少し演歌っぽくアレンジしてみました。こんなことはアマチュアだからやれることだろうと思いますのでお許しのほど。そして日本語の流れを良くするためにやや意訳や行の入れ替えをしていますのでこの曲はいつものように対訳にはなっていません。といいつつもっと素直な直訳が欲しい人もけっこうおられるようなので(歌のレッスンのカンニング用などにでしょうかね?)、それは下に付けておきました。もっと作詩に才能があったらこのフォーレのメロディで歌える演歌風の詞にしてみるところなのですがそこまではできなくて残念です。
なお、ここで「ゆりかご」は複数形になっていますので、港町では男たちそれぞれが同じような罪なことをしているということなのでしょうか。

ということでこの港の女の嘆きを切々と歌い上げるとなると、フレデリカ・フォン・シュターデのちょっと翳りのある声が打ってつけでしょうか。ナタリー・シュトゥツマンのもいいのですがちょっとドスが効きすぎているようで、この詞を見ながら聴くとなんか怖いです。こちらの方がハマリ過ぎていると言えば返す言葉もないのではありますが。

   港に並ぶ大きな船の列は
   静かに波に揺られているが
   ゆりかごには気を留めもしない
   女たちがその手で揺すっているゆりかごには

   また別れの日がくるのだ
   女たちは泣かなければならない
   好奇心の強い男たちは
   差し招く水平線へと船出するのだから

   その日に 大きな船たちは
   小さくなっていく港を離れるが
   引きとめようという力を感じるだろう
   それははるか彼方のゆりかごの魂なのだ

( 2006.11.19 藤井宏行 )


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