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Le jet d'eau   L 64  
  Cinq Poèmes de Baudelaire
噴水  
     ボードレールの5つの詩

詩: ボードレール (Charles Baudelaire,1821-1867) フランス
    Les Épaves - Galanteries 8 Le jet d'eau

曲: ドビュッシー (Claude Achille Debussy,1862-1918) フランス   歌詞言語: フランス語


Tes beaux yeux sont las,pauvre amante!
Reste longtemps sans les rouvrir,
Dans cette pose nonchalante
où t'a surprise le plaisir.
Dans la cour le jet d'eau qui jase
Et ne se tait ni nuit ni jour,
Entretient doucement l'extase
Où ce soir m'a plongé l'amour.

   La gerbe d'eau qui berce
   Ses mille fleurs,
   Que la lune traverse
   De ses pâleurs,
   Tombe comme une averse
   De larges pleurs.

Ainsi ton âme qu'incendie
L'éclair brulant des voluptés,
S'élance,rapide et hardie,
Vers les vastes cieux enchantés.
Puis,elle s'épanche,mourante
En un flot de triste langueur,
Qui par une invisible pente
Descend jusqu'au fond de mon coeur.

   La gerbe d'eau qui berce
   Ses mille fleurs,
   Que la lune traverse
   De ses pâleurs,
   Tombe comme une averse
   De larges pleurs.

O toi,que la nuit rend si belle,
Qu'il m'est doux,penché vers tes seins,
D'écouter la plainte éternelle
Qui sanglote dans les bassins!
Lune,eau sonore,nuit bénie,
Arbres qui frissonnez autour,-
Votre pure mélancolie
Est le miroir de mon amour.

   La gerbe d'eau qui berce
   Ses mille fleurs,
   Que la lune traverse
   De ses pâleurs,
   Tombe comme une averse
   De larges pleurs.

きみの可愛い瞳は疲れているね、かわいそうな恋人よ
さあ目をとじたまま、じっと休んでおいて、
その物憂げなポーズのまま
ちょうど突然の喜びが君に訪れたときのようなポーズで。
外の庭にさざめく噴水は
夜も昼も静まることなく
この幸せな気持ちを穏やかに保ってくれている
今宵、愛がぼくの中に掻き立ててくれた幸せを

  水の柱が揺らす
  幾千もの花々
  その向こうには月明かり
  蒼い光を投げかける
  雨のように降り注ぐ
  大粒の涙のしずく

きみの心に火が付いて
喜びの炎が燃え上がり
激しくも大胆に跳ね上がるのだ
この広い素敵な空を目指して。
でも、炎はすぐに崩れて息絶え
悲しげにうめく波となって
見えない坂を下り
ぼくの心の底まで降りてくる

  水の柱が揺らす
  幾千もの花々
  その向こうには月明かり
  蒼い光を投げかける
  雨のように降り注ぐ
  大粒の涙のしずく

おお、きみよ、この夜がきみを美しく輝かせる
なんて素敵なんだ、きみの胸にもたれかかりながら
永遠に続くこの嘆きの音
この噴水のすすり泣く音を聞くことは。
月よ、水音よ、祝福された夜よ
まわりで震えている木々よ
きみたちの純粋な憂いは
ぼくの愛を映す鏡なのだ

  水の柱が揺らす
  幾千もの花々
  その向こうには月明かり
  蒼い光を投げかける
  雨のように降り注ぐ
  大粒の涙のしずく



視覚的な美しさが大変際立っている詩です。私の力ではうまく日本語で表現できないのがもどかしいですが、ドビュッシーの音楽の中でも屈指の名曲と言われるこの作品を紹介するのですから精一杯言葉を選んでみました。言葉に対する敏感なメロディー付けが身上のドビュッシー歌曲ですから、こんな下手な訳を読むよりも意味は分からなくても原語の響きに身を任せる、ってのもアリのような気はしますけれども、私も今回自分で訳してみたおかげでこの曲を2倍も3倍も楽しめるようになりましたので、余計なお世話ながら掲載することにします。
ボードレールの詩としてはちょっと甘美さが過ぎるような印象もなくはないですが、それでもリフレインの噴水の描写のところなどは溜息ものです。既訳の中にはこのリフレインをもっと歌の文句っぽく綺麗な五七や五五の音韻のリズムで揃えていたものもあって、私もちょっとマネてみようかなとも思いましたが、あまりうまく行かなかったのでやめました。

恋人と二人きりの幸せな夜に、月明かりを浴びて庭で美しくゆらめく噴水の水。詩と音楽の素晴らしさに昔から良く歌われていた曲のようで、私の手元にも古くはクレール・クロワザやマジー・テイトなどの名歌手の素晴らしい歌のSP復刻録音がありました。またこの曲はドビュッシー自身による管弦楽伴奏版もあって、フォン・オッターの歌にピエール・ブーレーズ指揮クリーブランド管弦楽団、あるいはジェニファー・ラーモアの歌にジャン・パスカル・トルトゥリエのBBC交響楽団の伴奏によるものなどが聴けるようです。管弦楽ファンにはこういう色彩感あふれるのも良いのでしょうけれども、私はピアノ伴奏で十分にこの曲を堪能していますのであえてそこまでしなくても、と思わなくもありません。
まあ演奏形態はどうあれ、この傑作は歌曲を愛する人なら一度は聴いてみてください。詩と音楽のひとつの幸せな融合が聴けるものと思いますので。
ヘンドリックスやアップショウなどのアメリカの女性陣の歌うこの曲もいいですね。ドビュッシーの曲に見え隠れするある種の俗っぽさが彼女たちの歌で強調されるのが良いのかも知れません。そういえばアメリカの歌曲もこんなドビュッシー風のミュージカルみたいなのがたくさんあって、私はけっこう堪能させてもらっています。そんなのもゆくゆくは取り上げてみたいと思っています。

( 2006.11.10 藤井宏行 )


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