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豊太閤    
 
 
    

詩: 不詳 (Unknown,-) 
      

曲: 瀧廉太郎 (Taki Rentarou,1879-1903) 日本   歌詞言語: 日本語


戦えば勝ち攻むれば取る
僅かに数年天下一統
布衣(ほい)より起こりて四海を治む
御門の震襟初めて安し
国家の隆盛是より興る
類(たぐひ)なき智恵 比類なき武勇
嗚呼人なるか 嗚呼神なるか
嗚呼太閤 豊太閤

万里を隔つる外国(とつくに)なるも
傲慢無礼の振舞あらば
討ちて懲して降参せしむ
何より重きは国家の名誉
振ひに振ひし日本の国威
輝き揚がりし 皇国の国旗
嗚呼人なるか 嗚呼神なるか
嗚呼太閤 豊太閤

太閤出ずれば日本は狭し
世界に示せる無類の功
万里の果てまで聞こゆる誉
皇国の名声彼故高し
日本男児の誠の鑑(かがみ)
日本魂(やまとだましい) 斯くこそあれよ
嗚呼人なるか 嗚呼神なるか
嗚呼太閤 豊太閤



このサイトでもたいへんお世話になっている「あそびの音楽館」では最近「瀧廉太郎作品集」ということで彼の作品のMP3化に取り組まれています。「お正月」や「花」、「箱根山」に「荒城の月」といった有名曲ばかりでなく、ここでも取り上げた「荒磯」や珍しいピアノ曲「メヌエット」など珍しい曲まで幅広く取り上げられ、ついには全曲紹介に進まれる予定とのことです。

全曲制覇ということでうれしいのは、瀧廉太郎の作品の中で今の世に取り上げられることも、そして歌われることもなくなってしまっているものも音として聴けるということで、小川寛大氏の著書「海ゆかばを歌ったことがありますか」で私もその存在を初めて知った瀧の最初の作品である軍歌「日本男児」など、現代の軍歌忌避の流れの中でも堂々と取り上げられて下さっていることも特筆すべきことでしょう。
さてそんな瀧廉太郎の出世作のひとつである「豊太閤」も詩はすごいです。一応豊臣秀吉のことに仮託して書かれてはいますが、ここで書かれている愛国心はまさに明治の時代がはぐくみ、先の太平洋戦争の敗戦で全面的に否定された大日本帝国主義のもの。特に第2節の激しさはどうでしょう。秀吉の朝鮮出兵を題材としながらもこれは日清と日露の両戦争の間に書かれた詩と音楽であることを考え合わせると、時代の気持ちを色濃く表していると言わざるを得ません。
この曲は1900年(明治33年)、文部省が中学唱歌を公募した際に集まった200曲の中に瀧が応募した3曲のうちのひとつ、他の2曲「荒城の月」と「箱根八里」と共に入選した38曲の中に選ばれた作品です。翌年この中学唱歌集は出版されました。
日清戦争に勝って日本が大陸に進出する弾みがついたのが1894年、朝鮮・満州へと勢力を伸ばしていく中でちょうどこの1900年頃というとロシアとの関係が険悪になってきた頃でしょうか。そう思うと第2節の激しさがどこに向けられているのかは何となく分かります。

題材と歌詞の内容が災いしてかこの中学唱歌に採択された他の2曲ほどのポピュラリティは得られなかったこの曲ですが、音楽としてはなかなか魅力的です。ベートーベン風の風格のあるメロディはまるでどこかの高校の校歌のよう。絶妙のリタルダンドなども織り交ぜながらたいへん楽しい歌です。瀬戸口藤吉の「軍艦マーチ」(確かこれは盛岡の高校の校歌になっていたはず)のように歌詞を変えてどこかの学校の校歌になっているかも知れない、とさえ思わせる味わいが好ましく、しみじみとした哀愁の「荒城の月」や、軽快で力強く言葉と音楽の絡み合いが楽しい「箱根八里」と比べても決して遜色はないと私は思いました。

幸いこの曲はVictorの日本の声楽・コンポーザーシリーズのCDの瀧作品集の中でも「日本男児」とは違って取り上げられています。平野忠彦の端整なバリトンの歌に本当に校歌の伴奏のようなメロディがついて(もともとこの唱歌の出版譜には伴奏がついていなかったようなのでどなたかの後年の編曲です)実に面白い演奏でした。

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( 2006.11.05 藤井宏行 )


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