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Can she excuse my wrongs    
  The Firste Booke of Songes
あのこはぼくの苦しみをどう言い訳できるのか  
     歌の本第1

詩: 不詳 (Unknown,-) 
      

曲: ダウランド (John Dowland,1563-1626) イギリス   歌詞言語: 英語


Can she excuse my wrongs with Virtue's cloak?
Shall I call her good when she proves unkind?
Are those clear fires which vanish into smoke?
Must I praise the leaves where no fruit I find?

No,no; where shadows do for bodies stand,
Thou may'st be abus'd if thy sight be dim.
Cold love is like to words written on sand,
Or to bubbles which on the water swim.

Wilt thou be thus abused still,
Seeing that she will right thee never?
If thou canst not o'ercome her will,
Thy love will be thus fruitless ever.

Was I so base,that I might not aspire
Unto those high joys which she holds from me?
As they are high,so high is my desire,
If she this deny,what can granted be?

If she will yield to that which reason is,
It is reason's will that love should be just.
Dear,make me happy still by granting this,
Or cut off delays if that I die must.

Better a thousand times to die
Than for to love thus still tormented:
Dear,but remember it was I
Who for thy sake did die contented.


あのこはぼくの苦しみをどう言い訳できるのか、可愛いフリをして?
彼女が冷たいとわかったのに、ぼくは彼女を素敵だと呼べるだろうか?
それって煙となって消えてしまう炎なのだろうか?
ぼくは実りのない木を褒め称えなければならないのだろうか?

いや、影がそこにいる人と間違えられるようなところだと
ぼんやりしてたらだまされるんだ
冷たい愛なんて、砂に書かれた言葉のようなもの
それとも水に浮かぶ泡

お前はまだ愚かにすがりつくのか
あのこは決してお前に優しくないのに?
あのこの心を勝ち取らなければ
お前の愛が実ることはないのに

ぼくはそんなにダメなやつだったのか、高望みしなかったことが
あのこがぼくに求めただけの大きな喜びを
そいつがでかければでかい分、ぼくの願いも大きいのに
あのこがそれを否定するなら、いったい何を受け入れてくれるのか?

もしもあのこが真面目に考えてるのなら
愛することが真っ当なことなのに
ねえ、この愛を受け入れてぼくをシアワセにしてよ
でなけりゃ今すぐに死なせてくれよ

死んじまった方が何千倍もいい
愛するためにずっと苦しむよりは
愛しい人よ、でも忘れないで、それはぼくなんだ
君のために、満ち足りて死んでいった男は



ロックシンガーのスティングが、17世紀のシンガーソングライター、ジョン・ダウランドの歌を歌ったアルバム「ラビリンス」が現在一部で大変な話題となっているようです。私も個人的にこういうクロスオーバーは大好きなので早速聴いてみました。
なんと生々しい歌なのでしょう。古楽でも声楽のこういう分野は得てして枯れまくった年寄り臭い解釈がまだ幅を利かせているようなところがあるのですが、このダウランドは全然違います。将にブリティッシュ・ロックのルーツ、というよりもブリティッシュロックそのもののような音楽として聴こえてきます。最初に彼の歌が入るのがこの曲なのですが、多重録音でひとりハモるスティングはやっぱりスティング。枯れた古楽に慣れきった耳には許しがたいかも知れませんが、私はこの音楽のポップな響きに感動してしまいました。ベートーヴェンとかショパンとかをポップミュージックに編曲すると大抵の場合非常にキッチュな、笑ってしまうようなものしかできないことが多いのですが、このダウランドは断然カッコイイです。たぶん17世紀にダウランドのこの歌を聴いた聴衆が感じたイメージもきっとこんなものだったのでしょう。

というわけで、歌詞もできるだけ俗っぽく、ポップスの歌詞のイメージで訳してみました。とはいえ結構古い英語は難しく、結局堅苦しい生気のないものになってしまったような気がします。またそんな難しさからか、特にこの曲では冒頭のExcuse my wrongsを「私の苦しみを言い訳する」と「私の過ちを許す」の全然違う意味に取っているものに邦訳では2分されています。意味の通り具合から言って、これは明らかに彼女の冷たさへの恨み言ですから私は「言い訳」の方の訳を取りました。またスティングのCDの邦題もたしかこちらを採用していたと思います(邦盤を持っていないのでうろ覚えですが)。その他の場所でも多様な解釈がされていて、どの邦訳を参考にして良いのか非常に困ってしまいました。特に第4節は全然意味が取れていませんがお許し頂ければ幸いです。

この曲の歌詞は、エリザベス1世の恋人として知られたエセックス伯の作だといわれています。1597年に出された第1巻の第5曲。

( 2006.10.21 藤井宏行 )


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