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Ma Boheme (Fantaisie)    
  Univers de Rimbaud
わが放浪(ファンタジー)  
     ランボーの宇宙

詩: ランボー (Jean Nicolas Arthur Rimbaud,1854-1891) フランス
      Ma Boheme (Fantaisie)

曲: エッシャー (Rudolf Escher,1912-1980) オランダ   歌詞言語: フランス語


Je m'en allais,les poings dans mes poches crevées;
Mon paletot soudain devenait idéal;
J'allais sous le ciel,Muse,et j'étais ton féal;
Oh! là là! que d'amours splendides j'ai rêvées!

Mon unique culotte avait un large trou.
Petit-Poucet rêveur,j'égrenais dans ma course
Des rimes. Mon auberge était à la Grande-Ourse.
Mes étoiles au ciel avaient un doux frou-frou

Et je les écoutais,assis au bord des routes,
Ces bons soirs de septembre où je sentais des gouttes
De rosée à mon front,comme un vin de vigueur;

Où,rimant au milieu des ombres fantastiques,
Comme des lyres,je tirais les élastiques
De mes souliers blessés,un pied contre mon coeur!


ぼくは出かけた、両方のこぶしを破れたポケットに突っ込んで
ぼくのおんぼろコートは全く最高だった
ぼくは空の下を行く、ミューズよ、ぼくはあなたのしもべだ
おお、そうそう、なんて壮大な愛をぼくは夢見たことか!

一張羅のズボンにも大きい穴が開いていた
夢見る親指小僧は道すがらばらまいてゆく
詩の数々を。ぼくの宿屋は大熊座
空の星々はやさしくささやいていた

そのささやきを聞いていた、道端の石に腰掛けて
この素敵な9月の宵、ぼくは感じてた
夜露が顔にかかるのを、まるで景気づけのワインのように

ファンタスティックな影の中、詩をつぶやきながら
竪琴みたいに、ぼくはゴム紐を引っ張った
片足を胸に抱きかかえながら、ぼくの破れ靴から。


アルチュール・ランボーの初期の詩篇からです。若い文学青年の意気込みをユーモラスに美しく描いています。親指小僧:Petit-Poucetはシャルル・ペローの童話の主人公で、あるいは親指トムという英語の題名でも知られていますでしょうか。体はチビだが聡明な男の子のお話です。
オランダの現代作曲家、ルドルフ・エッシャーがこの詩に付けた曲は戦争を題材とした「悪」や「谷間に眠るもの」のようには激しくありませんが、やっぱり巨大な管弦楽伴奏でけっこうヘヴィな音楽です。この詩なんかは軽妙な歌曲になりそうな気がするんですけれども、私の知る限りのクラシック歌曲作品はありません。これだけ有名な詩ですからきっと誰かは曲を付けているとは思うのですけれどもね。

この詩、フランスの象徴派詩人の影響を強く受けた詩をたくさん書いている中原中也が翻訳したものを見つけました。並べて載せると私の訳のつたなさが際立ちますけれども、せっかくですから載せましょう。


わが放浪   ランボー 中原中也 訳

  私は出かけた、手をポケットに突っ込んで。
  半外套は申し分なし。
  私は歩いた、夜天(よぞら)の下(もと)を、ミーズよ、私は忠僕でした。
  さても私の夢みた愛の、なんと壮観だったこと!

  独特の、わがズボンには穴が開いてた。
  小さな夢想家・わたくしは、道中韻をば捻ってた。
  わが宿は、大熊星座。大熊星座の星々は
  やさしくささやきささやいていた。

  そのささやきを路傍(みちばた)に、腰を下ろして聴いていた
  ああかの九月の宵々よ、酒かとばかり
  額には、露の滴(しずく)を感じてた。

  幻想的な物陰の、中で韻をば踏んでいた、
  擦り剥げた、私の靴のゴム紐を、足を胸まで突き上げて、
  竪琴みたいに弾きながら。

( 2006.10.20 藤井宏行 )


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