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さっきのつや消しの    
  歩行について
 
    

詩: 宮沢賢治 (Miyazawa Kenji,1896-1933) 日本
    春と修羅 (1924)  小岩井農場 パート4

曲: 林光 (Hayashi Hikaru,1931-2012) 日本   歌詞言語: 日本語


 さつきの光沢消しの立派な馬車は
 いまごろどこかで忘れたやうにとまつてようし
 五月の黒いオーヴアコートも
 どの建物かにまがつて行つた
冬にはこゝの凍つた池で
こどもらがひどくわらつた
 (から松はとびいろのすてきな脚です
  向ふにひかるのは雲でせうか粉雪でせうか
  それとも野はらの雪に日が照つてゐるのでせうか
  氷滑りをやりながらなにがそんなにをかしいのです
  おまへさんたちの頬つぺたはまつ赤ですよ)
葱いろの春の水に
楊の花芽(ベムベロ)ももうぼやける……

いまこそおれはさびしくない
たつたひとりで生きて行く
こんなきままなたましひと
たれがいつしよに行けようか
大びらにまつすぐに進んで
それではいけないといふのなら
田舎ふうのダブルカラなど引き裂いてしまへ
それからさきがあんまり青黒くなつてきたら……
そんなさきまでかんがへないでいい
ちからいつぱい口笛を吹け

みちがぐんぐんうしろから湧き
過ぎて来た方へたたんで行く
むら気な四本の桜も
記憶のやうにとほざかる
たのしい地球の気圏の春だ
みんなうたつたりはしつたり
はねあがつたりするがいい



( 2019.11.03 藤井宏行 )


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