Dirge Op.31-5 Serenade for tenor,horn and strings |
挽歌 テノール・ホルンと弦楽のためのセレナード |
This ae nighte,this ae nighte, Every nighte and alle, Fire and fleete and candle-lighte, And Christe receive thy saule. When thou from hence away art past, Every nighte and alle, To Whinnymuir thou com'st at last; And Christe receive thy saule. If ever thou gav'st hos'n and shoon, Every nighte and alle, Sit thee down and put them on; And Christe receive thy saule. If hos'n and shoon thou ne'er gav'st nane, Every nighte and alle, The winnies shall prick thee to the bare bane; And Christe receive thy saule. From Whinnymuir when thou may'st pass, Every nighte and alle, To Brig o' Dread thou com'st at last; And Christe receive thy saule. From Brig o' Dread when thou may'st pass, Every nighte and alle, To Purgatory fire thou com'st at last; And Christe receive thy saule. If ever thou gav'st meat or drink, Every nighte and alle, The fire shall never make thee shrink; And Christe receive thy saule. If meat or drink thou ne'er gav'st nane, Every nighte and alle, The fire will burn thee to the bare bane; And Christe receive thy saule. This ae nighte,this ae nighte, Every nighte and alle, Fire and fleete and candle-lighte, And Christe receive thy saule. |
この夜に、この夜に どんな夜にあっても 暖炉が、家が、そして灯りがある そしてキリストは汝の魂を受け入れる 汝がここより遠く離れ去っても どんな夜にあっても 茨の荒野へとついには至るであろう そしてキリストは汝の魂を受け入れる もし汝が衣類を、靴を誰かに分かち与えたことがあるならば どんな夜にあっても 座ってそれを身に着けるがよい そしてキリストは汝の魂を受け入れる だがもし汝が衣類を、靴を誰にも分かち与えたことがないならば どんな夜にあっても 茨が汝の足を骨まで貫き通すであろう そしてキリストは汝の魂を受け入れる 汝が茨の道を通り抜けて行けば どんな夜にあっても 恐れの橋についには至るであろう そしてキリストは汝の魂を受け入れる 汝が恐れの橋を渡って行けば どんな夜にあっても 煉獄の炎についには至るであろう そしてキリストは汝の魂を受け入れる もし汝が誰かに肉を、飲物を与えたことがあるならば どんな夜にあっても 煉獄の炎が汝を焼き尽くすことはないであろう そしてキリストは汝の魂を受け入れる だがもし汝が誰にも肉を、飲物を与えたことがないならば どんな夜にあっても 煉獄の炎が汝を骨の髄まで焼く尽くすであろう そしてキリストは汝の魂を受け入れる この夜に、この夜に どんな夜にあっても 暖炉が、家が、そして灯りがある そしてキリストは汝の魂を受け入れる |
15世紀の古語が大変難しいので翻訳をためらっていたのですが、ネットをそれなりに探すと使われている言葉の解説や、更には現代語訳をして下さっているサイトなどがいろいろ見つかりましたので、それを参考に何とか訳を仕上げてみました。これはタイトルが「挽歌(Dirge)」とあることからもお分かりのように葬送の場で死出の旅路に出る人を送る歌ですね。日本で言えばお通夜の読経といったイメージでしょうか。そういえば邦題でそのものズバリ「通夜」としているものもありました。
茨の荒野(Whinnymuir)を抜け、恐怖の橋(Brig o' Dread)を渡り、そして煉獄(Purgatory)に至る。良き行いをしていた者は難なく通り過ぎることができますが、そうでなかった者は茨に刺され、炎に焼き尽くされます。三途の川を渡って閻魔大王様の前に出るのと同じような感覚でしょうか。15世紀当時は、この詩をローマカトリックの葬送の際に聖歌隊が歌っていたのだそうですが、何というか死者の安息を訴えるような感じがしませんね。
一応“And Christe receive thy saule”とは言っていますけれど、どちらかというと「功徳を積まないと地獄へおちるぞ」というような脅しを生き残ったものに突きつけているようなニュアンスが勝っています。
ブリテンの美しい歌曲集「セレナード」においても、不健康な夜の憂鬱を描いたかのような第4曲「エレジー」と、そして夜闇の中の死の恐怖を歌っているこの「挽歌」は詩も音楽もちょっと異色です。この曲は冒頭はテナーのアカペラで歌われますが、段々と低弦から始まって伴奏楽器が増えながら音の厚みが増して行き、そして死出の旅路の中、恐怖の橋を渡るところではホルンが激しく咆哮します。そしてまた冒頭と同じ詞が戻ってくるところで伴奏が消え行き寂しく、というよりもぷつんと切れるように終わります。(2006.09.23)
( 2007.09.15 藤井宏行 )