TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


Sred’ shumnogo bala   Op.38-3  
  6 Romansov
騒がしい舞踏会の中で  
     6つのロマンス

詩: トルストイ,アレクセイ (Count Aleksei Konstantinovich Tolstoy,1817-1875) ロシア
      Средь шумного бала,случайно (1851)

曲: チャイコフスキー (Pyotr Ilyich Tchaikovsky,1840-1893) ロシア   歌詞言語: ロシア語


Sred’ shumnogo bala,sluchajno,
V trevoge mirskoj suety,
Tebja ja uvidel,no tajna
Tvoi pokryvala cherty.

Lish’ ochi pechal’no gljadeli,
A golos tak divno zvuchal,
Kak zvon otdalennoj svireli,
Kak morja igrajushchij val.

Mne stan tvoj ponravilsja tonkij
I ves’ tvoj zadumchivyj vid,
A smekh tvoj,i grustnyj,i zvonkij,
S tekh por v moem serdtse zvuchit.

V chasy odinokie nochi
Ljublju ja,ustalyj,prilech’;
Ja vizhu pechal’nye ochi,
Ja slyshu veseluju rech’,

I grustno ja,grustno tak zasypaju,
I v grezakh nevedomykh splju...
Ljublju li tebja,ja ne znaju,
No kazhetsja mne,chto ljublju!

騒がしい舞踏会のさなか、ほんの偶然に
世の中の心乱される喧騒にまぎれて
ぼくはあなたを見かけた、だが謎が
あなたの本当の姿を覆い隠していた

ただ瞳だけが悲しげに見えたが
声はとても素晴らしく響いていた
遠くから聞こえる葦笛のような
海のさざめく波のような響きだ

ぼくはあなたのやさしげな姿に惹かれた
それにあなたの物思うしぐさに
あなたの陽気な、しかしどこか悲しげな笑い声は
あのときからずっとぼくの心に響いている

ひとりぼっちの夜のひととき
ぼくは疲れ果て、体を横たえる
すると見えてくるのはきみの悲しげな瞳
聞こえるのはきみの陽気な会話の声

悲しみに、悲しい想いに満たされて
ぼくはいつの間にか眠ってしまう...
ぼくはあなたを愛してしまったのだろうか
ああそうだ、きっと愛してしまったんだ!


チャイコフスキーの歌曲の中でも名作の部類に入るでしょうか。ロシア歌曲を歌う人であれば大抵は取り上げている作品です。ただ私はさほど好みではなかったので、あまり今までじっくりと聴いたことのない作品でした。
今回改めて自分で訳しながら聴いてみるとけっこうツボです。アレクセイ・トルストイのあざといくらいに演出の効いた出会いのシチュエーション、そして夢うつつの中でも見えてくるその人の姿の描写なんかは恋に落ちた男の心理描写としても絶妙。この手のドラマティックな心理描写の得意なチャイコフスキーが気に入って取り上げたのも分かるような作品です。メロディは控え目に溜息を付くようなワルツではかなく終わってしまい、そんなにドラマティックではないですが...
有名な歌手の録音もたくさんありますが、そういうわけであまり熱心に聴いていませんので強くお勧めというべきものはありません。コテコテとしつこくないギャウロフの歌(BMG)が良いでしょうか。それと今までで唯一この曲を聴いてハッとさせられたのが、カイヤ・ウルブのソプラノにメイキ・マトリクの6弦ギターの伴奏の入ったロシア歌曲集(Harmonia Mundi France)、ギターの伴奏というのが大変にエレガントで、透き通ったソプラノの声共々絶妙の美しさでした。

( 2006.09.16 藤井宏行 )


TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ