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A Gay Caballero    
 
ゲイ・キャバレロ  
    

詩: クライン (Lou Klein,1888-1945) アメリカ
      

曲: クルーミット (Frank Crumit,1889-1943) アメリカ   歌詞言語: 英語


Oh I am a gay caballero
Coming from Rio de Janeiro
With nice oily hair,
And full of hot air,
I'm an expert at shooting the bull-o

I'm seeking a fair senorita
Not thin and yet not too much meat-a.
I'll woo her a while
In my Argentine style
I'll carry her off of her feet-a

I'll tell her I'm of the nobilio
And live in a great big castillio.
I must have a miss
Who will long for a kiss
And not say “Oh don't be so silly-o.

It was at a swell cabaretta
While wining and dining I met her.
We had one or two
As other folks do.
The night was wet but she got wetter.

She was a dancer and sing-a
At me she kept pointing her finger
And saying to me
“Si,Senor,Si Si”
But I couldn't see a durn thing-a

She told me her name was Estrella.
She said,”stick around me,young fella
For mosquitoes they bite
And they're awful tonight
And you smell just like citronella.”

She told me that she was so lonely
So I climbed upon her balcony.
While under her spell
I heard someone yell
“Get away from here you big baloney.”

I swore I'd win this senorita
I woo'ed her on the sofita
Then her husband walked in
What he did was a sin.
I can still hear the birds sing “Tweet tweet-a”

Now I am a sad caballero
Returning to Rio de Janeiro
Minus my hair,
A bruise here and there,
For her husband he chewed off my ear-o.
おいらはゲイ・キャバレロ
目指すはリオ・デ・ジャネイロ
ギンギンに決めた髪
陽気な笑顔
おいらの得意は牛撃ち

探すはきれいなセニョリータ
適度な肉付きの美人
結婚を決めてやる
あの街で
ナンパのスタイルも俺流

言ってやるぞ おいらはセレブ
住んでるところは御殿
キスしてくれる
花嫁探し
「ウッソー」って言わない素直なコ

行ったのは陽気なキャバレー
出会ったぞ素敵な彼女
だれでもがするように
杯(さかずき)かさね
しっとりと濡れるこの夜

その娘は歌って踊る
おいらに指を突き出して
「そうよ、セニョール
 そう、そう、そう、そう、そう」
言ってるけど意味がワカンネエ

あたしの名前はエストレラ
今夜あたしの家(うち)に来てね
シトロンの香りのする
あんたに居て欲しいの
あたしん家(ち)ヤブ蚊が多いのよ

それに、一人で寂しいの
そう言った女につられ
夢中でよじ登る
バルコニー
「誰だ」って声にも気付かず

やったぜ、おいらのもんだ
ソファーで口説いてる最中
飛び込んできたのは
女の亭主
そのあとはなんにも覚えてねえ

おいらは悲しいキャバレロ
とぼとぼと郷里(くに)に帰る
髪の毛はボロボロで
あざだらけ
齧られた耳が痛いぜ

「俺は村中で一番 モボだと呼ばれた男」(詞:坂井透)と、埼玉か群馬あたりの田舎村から東京の銀座へと意気揚々とやってきた村長のドラ息子の体験記。山高帽に真っ赤なネクタイ、ロイド眼鏡にセーラーのズボンやらポップヘアetc.と昭和初期の東京のモボ・モガ(モダンボーイ・モダンガール)の風俗を歌っていることで非常に名高いこの歌「洒落男」ですが、案外とオリジナルが日本では紹介されていないのが不思議。
アメリカのボードヴィル歌手、フランク・クルーミットはこの歌を、リオ・デ・ジャネイロから旅するカウボーイの物語として書きました。怪しげなスペイン語訛り(リオはブラジルだから実はポルトガル語訛りであろうか?)の英語が節々に織り込まれた大変愉快な歌です。なるほどそれで日本語版でもシャブリエの狂詩曲「スペイン」やイライエルの歌曲「ラ・パロマ」、それにビゼーのカルメン「闘牛士の歌」の断片が伴奏のあちこちに散りばめられているわけです。リオといえばポルトガル語圏のはずなのですが、まあアメリカ人にはブラジルとアルゼンチンの区別が付く人もそんなに多くないようですし、1曲まるごとスペイン情緒にしてしまう、っていうのもアリなんでしょう。
ちなみに良く知られた日本語版も舞台がリオでなくて東京の銀座に置き換えられているだけで、クルーミットのオリジナルと大体筋の展開は同じです(英語のオリジナルの方が美人局をやってる女の頭はご覧の通りかなり悪そうですけど)。キャバレロというのはスペイン語で「騎士」のことですから、直訳すると「陽気な騎士」ってな具合になるのでしょうか。しかし同時に裏の意味として「遊び人」というようなニュアンスもあるようなので、まあそのまま「ゲイ・キャバレロ」としておくのが適当かも知れません。

さて、ひとときポリティカルコレクト運動が席巻したアメリカでは、もうこんな感じの民族差別の匂いのするコミックソングは作れないんでしょうね。日本でもゼンジー北京というコミックマジシャンなんかがやっていた「〜アルよ」なんていう言葉はほとんどメディアからも駆逐されてしまったかのような今日この頃...(石ノ森章太郎の「サイボーグ009」のサイボーグ006なんかももうリメイクできないのだろうか?)モンティ・パイソンなどでやっていた怪しげな外国語訛りの英語をあやつる外国人ネタのギャグなんかが好きだった(もちろん日本人のもありました。確かイタリア人になりすます映画監督ヤカモトなんてキャラがいたはず)私としてはちょっと寂しいものがありますが、まあこういうキワドイものはギャグのセンスのない人間たちが下手に弄ぶと品のないものばかりになる危険が高いですから消えていくのも仕方のないことなのでしょう。

どうしてもやってみたかったので著作権で叱られるかも知れませんが、この知られざるオリジナルストーリーに比較的忠実な歌える日本語の歌詞を創作してみました。つい2〜3年前に流行っていたが今や死語になってしまったある意味「恥ずかしい」言葉を散りばめてみましたが、原詞もこんなムードだと私は読んでいて感じましたので思い切りバカっぽく...

さてこの曲、冒頭に引用した有名な日本語の詞を作った坂井透は作詞当時は慶応大の学生、ですがほとんどプロのミュージシャンのように当時流行のジャズソングを演奏していたのだそうです。原詩と引き比べてみても実に見事な訳詩です(「洒落男」で検索してみてください。すぐ見つかります)。歌える訳詩もこんな風のものでありたいですね。大いに刺激になります。この曲の録音にはエノケン(榎本健一)のベランメエ調の名調子もありますが、もっと飄々とした二村定一の歌が実に味があって良いです。オリジナルのクルーミットが歌ったものはAmazon.comなんかを調べて頂くと、Naxos nostalgiaとかいくつかのSP復刻レーベルで出ているのを入手することができます。私はNaxosので聴きました。
このクルーミットはラジオ草創期のアメリカの名パーソナリティだったのだそうで、今の日本でいえば「金太、負けるな」のツボイノリオさんみたいなキャラクターでしょうか。入手した復刻CDでもこの他に色々とコミカルな歌を歌っていてとても楽しいです。
原詞も飄々としてとても面白いので載せたいのですが、これは確実に著作権がアウトになりそうなのでやめておきます。作曲者のクルーミットの著作権は切れているのですが、作詞者?のルー・クラインの生没年がアメリカのサイトの検索をしても分かりません。ご存知の方があればご教示くださると有難いです。一応JASRACのデータベースでも著作権はまだ生きていることになっていました。もっともこちらの原詞も探せばわりとすぐに見つかります。興味のある方は頑張ってネット検索してみてください...

蛇足ですがこの「ゲイ・キャバレロ」よほど評判が良かったのか、クルーミットは「帰ってきたゲイ・キャバレロ」という曲も作っており、これも標記のNaxos盤で聴くことができました。こちらも筋は同じような展開のようですが(このキャバレロ反省がないのか?)、ちりばめられた伴奏はなぜか「可愛いオーガスティン」といったヨーロッパのものに変わっています。 (2006.09.15)

著作権が切れたようですので、原詩も掲載しました。日本語の方はそのままにしましたので対訳となっていないところもありますがご容赦ください。

( 2016.06.25 藤井宏行 )


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