Malagueña Op.135-2 Symphony no. 14 |
マラゲーニャ 交響曲第14番「死者の歌」 |
La muerte entra y sale de la taberna. Pasan caballos negros y gente siniestra por los hondos caminos de la guitarra. Y hay un olor a sal y a sangre de hembra en los nardos febriles de la marina. La muerte entra y sale y sale y entra la muerte de la taberna. |
死は 入ったり 出たりする この居酒屋を 黒い馬が通り過ぎ 悪漢たちが行き過ぎる 深い溝の間を このギターの溝の 塩の匂いが 女の血の匂いが 熱を帯びたハマナスの香りに混じる この浜辺で 死は相変わらず入ったり出たり 出たり入ったりを続けている 死は この居酒屋を |
第2楽章はスケルツォ風の速い楽章。弦の激しいパッセージに乗ってソプラノが歌います。私はこの曲もスペイン語の歯切れの良い響きの方が荒々しいリズムに合っているように思えて、オリジナルのロシア語翻訳バージョン(ゲレースクルL.Geleskulによる翻訳)よりは好ましく思えます。冒頭の叫びからして、スペイン語で「La Muerte(死は)」と一言だけ言うのとロシア語の「Smert’ voshla(死は入ってきた)」と一文にしてしまっているのとでは全然歯切れが違いますし、ロシア人が書いていてもここはやはりフラメンコ。ほの暗い熱気が実に見事に表現されています。ガルシア=ロルカの詩は今でもフラメンコにはよく使われるようですし、そんな状況を踏まえてこの曲のスペイン語による歌唱、もっとあっても良いように思います。元々このロルカの詩の収録されている詩集の題が「カンテ・ホンドの詩」、フラメンコに詳しい方はご存知のようにフラメンコの歌詞の中でも一番ディープなものがこのカンテ・ホンドと呼ばれていますので、その精神を深いところで読み取ったショスタコーヴィチの音楽だという解釈もあって良いように思うのです。Op.100の歌曲集「スペインの歌」のみを挙げるまでもなく、彼もまたグリンカやリムスキー=コルサコフなど他のロシアの作曲家同様にこうしてスペインの音楽の世界に足を踏み入れているのですから。
そういう点でこの曲に関しては超絶技巧のギターアンサンブルの伴奏に本場のフラメンコ歌手が歌うようなカヴァー版があっても良いとさえ思います(ギターでこの弦のパッセージがうまく弾けるかどうかということはここではあえて問いません...無理だろうなあ)
そしてスポーツ的な快感をさえ感じさせるバルシャイやロストロポーヴィチなどロシアの演奏家のものは確かに聴いていてインパクトはありますが、非ロシア系の演奏に多いもっとゆっくりと緻密に演奏されたものの方が実はこの詩の本質をよく掴んでいるのではないかという気もします。その意味ではやはりオリジナルのスペイン語詩の響きもあいまってハイティンク指揮アムステルダムコンセルトヘボウ管弦楽団のバックに乗ったユリア・ヴァラディの歌が私には印象深く感じられました。
ちなみにこの曲、フィンランドの現代作曲家ラウタヴァーラが合唱の作品にしています。合唱をやっている人口も厚きゆえ、もしかするとこの詩に付けた音楽としては日本ではこちらの方が有名かも知れません。スペイン語の原詩はロシア語訳の詩(ロシア語版からの翻訳をするつもりはないのでロストロポーヴィチ盤の英語対訳とウサミナオキ氏による邦訳のみで判断していますが)とはかなり違っていますね。スペイン語の原詩は言葉をブツブツと切っていて、とても研ぎ澄まされた感じがします。なお“los nardos febriles”というのは花の名前ようですが、どのような花か結局突き止め切れませんでしたので、浜辺に咲く花ということでハマナスにしています。
( 2006.08.19 藤井宏行 )