Die Alte K.517 |
老婆 |
Zu meiner Zeit,zu meiner Zeit Bestand noch Recht und Billigkeit. Da wurden auch aus Kindern Leute, Aus tugendhaften Mädchen Bräute; Doch alles mit Bescheidenheit. O gute Zeit,o gute Zeit! Es ward kein Jüngling zum Verräter, Und unsre Jungfern freiten später, Sie reizten nicht der Mütter Neid. O gute,Zeit,o gute Zeit! Zu meiner Zeit,zu meiner Zeit Befliß man sich der Heimlichkeit. Genoß der Jüngling ein Vergnügen, So war er dankbar und verschwiegen; Doch jetzt entdeckt er's ungescheut. O schlimme Zeit,o schlimme Zeit! Die Regung mütterlicher Triebe, Der Vorwitz und der Geist der Liebe Fährt jetzt oft schon in's Flügelkleid. O schlimme Zeit,o schlimme Zeit! Zu meiner Zeit,zu meiner Zeit ward Pflicht und Ordnung nicht entweiht. Der Mann ward,wie es sich geblühret, Von einer lieben Frau regieret, Trotz seiner stolzen Männlichkeit. O gute Zeit,o gute Zeit! Die Fromme herrschte nur gelinder, Uns blieb der Hut und ihm die Kinder; Das war die Mode weit und breit. O gute Zeit,o gute Zeit! Zu meiner Zeit,zu meiner Zeit war noch in Ehen Einigkeit. Jetzt darf der Mann uns fast gebieten, Uns widersprechen und uns hüten, Wo man mit Freunden sich erfreut. O schlimme Zeit,o schlimme Zeit! Mit dieser Neuerung im Lande, Mit diesem Fluch im Ehestande Hat ein Komet uns längst bedräut. O schlimme Zeit,o schlimme Zeit! |
あたしの若い頃にゃ、若い頃にゃ もっとみんなきちんとしていたよ あの頃だって子供から大人になったし 貞淑な娘たちが花嫁になったさ だが、みんな控え目だった おお、いい時代だったよ! 人を裏切る若者はいなかったし 若い娘の結婚は今より遅かったから 母親を嫉妬させたりはしなかったのさ おお、いい時代だったよ! あたしの若い頃にゃ、若い頃にゃ 人目に付かないようにしていたもんだ 若いもんが楽しい思いをしているときでも 黙って有難がっていたものさ 今じゃ言いふらして歩くんだからねえ おお、いやな時代になったもんだね 母性愛の推進運動だとか 知ったかぶりだとか愛の精神だとか 翼のついた服を着て大手を振ってまかり通っている ああ、いやな時代だねえ あたしの若い頃にゃ、若い頃にゃ 義務や規則が汚されたりはしてなかった 男たちは当然のこととして 愛する女房の尻に敷かれていたよ 誇り高い男らしさは持ったままでね ああ、いい時代だったよ 情け深いお方が寛大に世を治めたので わたしらにはお殿様が、お殿様には世継が残った それが当たり前のことだったのさ おお、いい時代だったよ あたしの若い頃にゃ、若い頃にゃ 結婚生活は合意の上だったよ 今じゃ男共は頭から命令づくで 文句を言ったり、干渉したりする そのくせ自分たちは仲間と楽しみ放題 おお、いやな時代になったもんだね 国中こんな風な様変わりで 夫婦の仲までイカレちまったよ 不吉な彗星まであたしたちを脅かしている ああ、いやな時代だねえ |
昔は良かったよ、という繰言を延々と繰り返すお年寄りというのはいつの世にも変わらずいたんだなあ、というのが大変に興味深いこの曲。でもよくよく読むと現代の私たちにはおやっと思わせるフレーズがあちこちにあります。「娘は母親を嫉妬させないようにあまり早く嫁には行かなかった」だとかどうお感じになりますか?
古臭さを感じさせるピアノの通奏低音に乗って(この当時でも古くなってしまったスタイルの強調でしょうか)、嫌味たっぷりのバアサンの繰言がくどくど繰り返されるのは芸達者な歌手の本領発揮ができるところ。けっこう女性歌手の腕の見せ所だと思うのですが、歌曲集を作る際にもこの曲をあえて収録しない人もかなりおられて残念なところです。
そうは言いつつもアメリンクやマティスのように意外な人の好演も聴けるのですが、やはりここは先日亡くなったシュヴァルツコップの名唱を。ギーゼキングのピアノと入れた1955年の録音はまだ40歳にもなっていなかった時期ということになりますが、声の作り方といい、最後の語り口といいお年寄りっぽさを極限まで強調して絶妙。ヴォルフの歌曲に通じる曲のスタイルが彼女の持ち味にピッタリとはまって実に素晴らしい聴きものでした。
もうひとつ絶品と思ったのはテノールのペーター・シュライアーのもの、彼はフンパーティンクのオペラ「ヘンゼルとグレーテル」で魔女の役を実に見事にこなしていますが、その感じの怪しさが出てとても面白い仕上がりです。90年代に録音されたピアノのシフとの録音(Decca)が私はこの曲含めモーツアルト歌曲の多くに見え隠れするシニカルさやユーモアを出していてとても好きなのですが、もともとモーツアルトの歌曲にそういうものを求める人が多くないためかあまり評価されなかった音盤のようです(「作為を感じる」とかいう批評が当時あったような)。でもそんなヴォルフの歌曲にも通じる辛辣なユーモアが、逆にこの作曲家の繊細さを際立たせているという側面は必ずあると思うのです。その意味でもこの曲他何曲かのモーツアルト歌曲でのシュヴァルツコップとシュライヤーのアプローチは私にとってはいろいろなことを気付かせてくれた宝物です。
曲は1787年の作曲。この年はモーツアルトの傑作歌曲が集中し、人によっては彼の歌曲の年と呼びます。この曲はその最初を飾る作品です。
( 2006.08.14 藤井宏行 )