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死んだ少女    
 
 
    

詩: 江間章子 (Ema Syouko,1913-2005) 日本
       原詩: Nâzım Hikmet ヒクメット

曲: 猪本隆 (Inomoto Takashi,1934-2000) 日本   歌詞言語: 日本語


詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください


昨年のヒロシマの原爆忌に この詩(中本信幸訳)に曲を付けた外山雄三作品を取り上げました。その際に言及した猪本隆作品をようやく聴く機会がありましたので、ちょっと今年の原爆忌には遅れてしまいましたが取り上げてみたいと思います。
この猪本版の「死んだ女の子」、訳詩は「花の街」や「夏の思い出」で知られた詩人の江間章子。私が今まで見た限りでは一番ヒクメットの原詩に忠実な訳でした。そしてこの詩に猪本が付けた曲は、シェーンベルクの「ワルシャワの生き残り」を思い起こさせるようなシュプレッヒシュティンメ。「歌う」のではなく「語る」ようなそのスタイルが、この灰になって燃えてしまうという悲劇的な運命を背負ってしまった7歳の少女の訴えとしてズキズキと心に響く作品を生み出しました。
音楽の友社より出ているこの作品を収録した猪本隆の歌曲集のCD、この曲を歌っているのは日本歌曲でもこの手の語り物を歌わせたらおそらく右に出る人はいないであろう青山恵子さん、そして日本歌曲の伴奏ではまたこちらも冴え渡る解釈をいつも聴かせてくれる塚田佳男さんのピアノという名コンビで、震えがくるぐらい素晴らしい演奏でした。
この猪本隆の歌曲集「悲歌」、CDのオビに「世界中の様々な悲しい出来事により不幸になっていく子供達への、祈りを込めた歌曲集」とあるように、この曲ばかりでなく悲しい運命を背負わされてしまった可哀想な子供達の、ある意味聴くのが辛い歌ばかりを集めている作品集です。
そんなわけで聴き通すには相当の覚悟と体力が要るのでなかなかこのCDにも手が伸びないのですが、聴いたあとの余韻と静かな感動はもの凄いものがあります。時々ほっとするようなメルヘンティックな美しい歌があるのですが、そんな曲のあとに陰湿ないじめの犠牲となった少女のことを描いたあまりにも凄絶な「わたしのいもうと」(詩:松谷みよ子)なんて作品がくると、やっぱりドーンと暗くなってしまいますけれども...

猪本隆は先年惜しくも60代半ばで亡くなってしまいましたが、心ある歌手の方々が細々とではありますが取り上げ続けてくださっているようです。
私もそれだけの価値はある人だと思いますし、時代と共に忘れ去られることがなければいいな、と念じている日本歌曲作曲家のひとりです。

( 2006.08.09 藤井宏行 )


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