TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


   
 
 
    

詩: 武満 徹 (Takemitsu Touru,1930-1996) 日本
      

曲: 武満徹 (Takemitsu Touru,1930-1996) 日本   歌詞言語: 日本語


詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください


日本人の「歌の翼に」もひとつ取り上げてみようかと思ったのですが、日本人と翼というつながりはあまり歴史的には古いものではないようですね。ほとんど70年代のフォークソングあたりで感覚として出てきたものでしょうか。「翼をください〜」なんて歌っているのはそれ以前の歌謡曲などにはほとんどないように思いますし、航空機戦の重要度が増した第2次世界大戦中の軍歌でもあまり「翼」ということばは歌の文句になっていなかったような気がします。
(厳密に調べたわけではありませんので単なる印象ですが)

その意味であの武満徹が「翼」という曲を自らの作詞で1982年に書いたのは何か象徴的。日本がまだ成長の勢いを残し、時代にそれほど今のような閉塞感が強くなかった80年代の初めです。今や小学生の書くポエムあたりでも当たり前になったかのような「翼を手にしいつか空を飛ぶ」というテーマをこの時代に実に美しい歌にしてくれているのです。
この曲も多くの武満の「うた」がそうであるように舞台のための音楽として書かれたのだそうですが(1982年アーサー・コピットの「ウイングス」の劇中歌として市原悦子さんによって歌われたとあります)、今や合唱曲も含めていろいろなヴァリエーションで聴くことができますね。

ただ残念ながら個人的にはこの曲、合唱を含めクラシック系の歌唱ではいまひとつもやっとして心に響いてきませんし、より曲のスタイルに合っていると思えるポップス系の歌手でもなかなか成功している歌唱にめぐり合えずにいて残念な曲なのです。
この「翼」をCDのタイトルにしている石川セリさんのものや、作曲者との個人的交流も深く熱い思い入れの溢れている小室等さんのものも、他の曲の素晴らしい演奏に比べるとこの「翼」はもっとできたはずでは?というもどかしさを強く感じさせられてしまうのです。
それだけ表現が難しい曲なのか、それとも私がないものねだりをしているだけなのか、ただどうしてもこの曲、これはという歌にはいつかはめぐり合いたいとは思っています。

それでもこれはなかなか良いかも、という演奏には最近2つほどめぐり合いました。ひとつは非常に広いジャンルの歌をたいへん個性的なスタイルで料理して聴かせてくれる沢知恵さんのアルバム「いいうたいっぱい」、それとごく最近のリリースですが、ギタリストの渡辺香津美さんの伴奏に乗せてこれも個性的な歌手・吉田美奈子さんが歌っている「ギタールネサンス3」、特に後者はこの曲が作られた1970〜80年代という時代の熱気を思い出させてくれる懐かしいスタイルでとりわけ印象に残りました。

( 2006.08.04 藤井宏行 )


TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ