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L'ombre des arbres…   L 60  
  Ariettes Oubliees
川に映る木々の影  
     忘れられた小唄

詩: ヴェルレーヌ (Paul Verlaine,1844-1896) フランス
    Romances sans paroles - Ariettes oubliées 9 L'ombre des arbres dans la rivière embrumée

曲: ドビュッシー (Claude Achille Debussy,1862-1918) フランス   歌詞言語: フランス語


L'ombre des arbres dans la rivière embrumée
Meurt comme de la fumée,
Tandis qu'en l'air,parmi les ramures réelles,
Se plaignent les tourterelles.

Combien,ô voyageur,ce paysage blême
Te mira,blême toi-même...
Et que tristes pleuraient dans les hautes feuillées
Tes espérances noyées!

霧に包まれた川に映る木々の影は
まるで煙のように消えていく
頭の上には本物の枝
そこではキジバトが悲しみを歌う

何とまあ、おお旅人よ、この蒼ざめた景色は
きみの憂鬱さを映し出していることか!
そして高い葉の中で何と悲しく嘆いていることか
きみの溺れ死んだ希望というやつは


もやもやした旅先での光景、霧に包まれた朝の情景でしょうか。川とはいってもヨーロッパの川はゆったりと流れる大きなものが多いので鏡のように木々を映し出しているのでしょう。そして霧が晴れて煙のように消えていく木々の影が憂鬱さを、そして悲しみを歌うキジバトが溺れ死んだ希望を表していますが、私の訳でそこのところが分かりにくいのはまあ素人芸の浅はかさということで。
ドビュッシーは冒頭で朝のすがすがしい、しかしたいへん寂しげな光景を見事に描き出してくれています。しかし旅人の心か、後半は悲しみが激情となってほとばしり(「きみの憂鬱さを」のところ)、そして最後はすべてを吹っ切ったかのように静かに終わります。

ヴェルレーヌが引用したエドモン・ロスタンの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」の一節(これはもちろんドビュッシーの歌には織り込まれていません)が詩の冒頭には載っていて、それはこんな感じです。

  枝の上のナイチンゲールは自分の姿を水の中に見て、川に落ちたと思い込む
  カシの木の上にいるのに、溺れてしまうのが怖いのだ
  
和歌でいうと本歌取りの関係になっているのですね。そしてこれを踏まえてヴェルレーヌの詩を見ると非常にしみじみとしてしまいます。「この忘れられた小唄」は他の多くの詩にも最初に他の作家の詩句の引用を引っ張ってきていますが、少なくともこの詩に関してはこの引用が大変効果的だと思いますし、ドビュッシーのつけた音楽を解釈するにあたっても重要であるように思います。

( 2006.07.08 藤井宏行 )


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