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Die Mainacht   Op.43-2  
  Vier Gesänge
五月の夜  
     4つの歌

詩: ヘルティ (Ludwig Heinrich Christoph Hölty,1748-1776) ドイツ
      Die Mainacht

曲: ブラームス (Johannes Brahms,1833-1897) ドイツ   歌詞言語: ドイツ語


Wann der silberne Mond
durch die Gesträuche blinkt,
Und sein schlummerndes Licht
über den Rasen streut,
Und die Nachtigall flötet,
Wandl' ich traurig von Busch zu Busch.

Überhüllet von Laub
girret ein Taubenpaar
Sein Entzücken mir vor;
aber ich wende mich,
Suche dunklere Schatten,
Und die einsame Träne rinnt.

Wann,o lächelndes Bild,
welches wie Morgenrot
Durch die Seele mir strahlt,
find ich auf Erden dich?
Und die einsame Träne
Bebt mir heißer die Wang herab!

銀の月が
潅木に光注ぎ、
そのまどろむ光の残照が
芝に散りわたり、
ナイティンゲールが笛のような歌を響かせる時、
私は藪から藪へと悲しくふらつき回る。

葉に覆われて
鳩のつがいが私に
陶酔の歌を鳴いて聞かせる。
だが私は踵を返して
より暗い影を探し求め、
そして孤独な涙にくれるのだ。

いつになったら、おお微笑む姿よ、
朝焼けのように
私の魂に輝きわたる姿よ、
この世であなたを見出せるのだろうか。
すると孤独な涙が
私の頬を伝ってさらに熱く震え落ちた。

この感動的な作品はブラームスの最も有名な歌曲で、Hoeltyの詩によって1866年に作られた。

ヘルティの原詩のうち第2節をブラームスは省いたが、そこでは笛のような鳴き声を響かせるナイティンゲールがパートナーの雌と1つの巣の中で千回もの口づけをするという内容で、恋する女性と離れている詩人の寂しさと対照をなしている。

ブラームスが第2節を省いたのは、詩人の孤独感を浮き立たせるのに鳩のつがいだけで十分だと思ったのだろうか。鳩が恋の陶酔を響かせる箇所で異様に盛り上がるのは、詩人の繊細な感受性を反映しているかのようであり、ブラームスが深くこの詩人に共感していることは間違いないだろう。

曲は静かにゆったりと始まり、2節、3節の後半に高まるが、ブラームスの曲の付け方は失った恋人の行方よりも自らの流す涙に焦点を合わせているようだ。

シューベルトは有節形式でこの同じ詩に作曲しており、F=ディースカウは詩のイメージに近いのはシューベルトの方だと言っているが、曲の深さという点ではブラームスの方に軍配があがるだろう。

淡谷のり子が学生時代にこの曲をさらったという話を以前ラジオで聞き、往年の流行歌手たちがみな技術的にもしっかりしているのは本格的な発声を勉強しているからと納得した。この時の放送で、彼女が手本としたリリー・レーマンの針音だらけの録音が流れたのを覚えている。

プライ(BR)ホカンソン(P)(PHILIPS : 1972):ただ悲しいだけでなく、ほのかな希望も見える暖かい歌で感動的。ホカンソンのピアノが実に味わい深い。

白井光子(MS)ヘル(P)(CAPRICCIO : 1987):大きな弧を描いて白井の歌が余裕のあるフレージングを聴かせ素晴らしい。ヘルのピアノはやや神経質だが表現意欲が伝わってくる。

キプニス(BS)ムーア(P)(MUSIC & ARTS : 1936):お人よしな役が合いそうな声で時に泣きが入る感傷的な歌。時代を感じさせるが貴重な記録。30代のムーアの演奏が聴ける。

ほかにルートヴィヒ(MS)ムーア(P)盤やオッター(MS)フォシュベリ(P)盤、プライ(BR)エンゲル(P)盤もいい。

かつてアーウィン・ゲイジがマスタークラスでこの曲の後奏を弾いた時、その場の空気がすべて天空に吸い込まれていくように感じ、思わず溜息がもれた。あの時の感動が忘れられない。

( 2002.04.23 フランツ・ペーター )


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