C'est l'extase L 60 Ariettes Oubliees |
それはエクスタシー 忘れられた小唄 |
C'est l'extase langoureuse, C'est la fatigue amoureuse, C'est tous les frissons des bois Parmi l'étreinte des brises, C'est,vers les ramures grises, Le choeur des petites voix. O le frêle et frais murmure! Cela gazouille et susurre, Cela ressemble au cri doux Que l'herbe agitée expire... Tu dirais」ャsous l'eau qui vire, Le roulis sourd des cailloux. Cette âme qui se lamente En cette plainte dormante, C'est la nôtre」ャn'est-ce pas? La mienne,dis,et la tienne, Dont s'exhale l'humble antienne Par ce tiède soir,tout bas? |
それはけだるいエクスタシー それは愛したあとの疲労感 それは森が震える音 そよ風に抱かれている森の それは灰色の枝々のまわりで聴こえる 小さな声のコーラス おお、ひそやかにみずみずしい歌声よ! それはさえずり、そしてささやいている まるで静かな泣き声 揺れる草の葉がそっと漏らす泣き声のようだ 君は言うかもしれない、せせらぎの下で 小石が静かに転がる音みたい と 嘆きに満ちたこの魂 そしてその嘆きを眠らそうとしている魂 それはぼくたちのもの、それとも違うの? ぼくのもの、そしてきみのもので そこからぼくらはつつましい祈りの歌を呼吸しているんじゃないの? この暖かい夕暮れに、おだやかに... |
ヴェルレーヌの有名な詩です。フォーレの付けた曲がよく知られていると思いますが、あちらの気品溢れる感じのする音楽に比べてみたときには、恋人と愛し合ったあとのエクスタシーとけだるい疲れをアブナクなってしまう寸前の美しさで留めているドビュッシーの書いた曲の方が私には数段インパクトを持って聴こえてきます。とにかくエロティックな響きでこの不思議な、しかし美しい詩を音楽として聴かせてくれる点でドビュッシーの音楽の力は凄いものがあります。ふたり裸でベッドに横たわり、外からほのかに聞こえてくる森のざわめきを聴くともなしに浸っている...そんな情景を思い描いてしまいました。
最後に「この暖かい夕暮れに」とありますからまだ暗くなる前からやっちゃってるんですかねえ。つつましい祈りの歌の呼吸ってのも愛撫やらでひとしきり体を動かしたあとの深呼吸かも?でもこの詩から見えてくるのは充実感ではなくてある種の空しさのように私には思えます。ここで嘆いているような空しさがあるからこそエクスタシーを感じられるというのもまた真実ではないでしょうか?
詩はC'est(It's)が繰り返し繰り返し出てきますので、意識的に「それは」を対応させてみました。
原詩と少なくとも行では対応が取れるように努力しましたが、おかげで係り結びが思い切り不自然になって意味が取りにくくなったところもありますけれどもご容赦ください。まあヴェルレーヌのこの詩をこんな解釈で解説するところは他にあんまりないかと思いますのでそれだけでも楽しんで頂ければ幸いです。でもドビュッシーの音楽はもろにそんな感じがします。そういうことに気付かされた(あるいはそういうことを妄想させた)音楽の力は凄いものがあると思います。
ジャニーヌ・ミショーやバーバラ・ヘンドリックスといった透明感のあるソプラノで歌われるとそれはもう艶かしいです。前奏のピアノの音もインパクトがありますが、それぞれチッコリーニとベロフという名手が務めていますのでこちらも万全です。
( 2006.05.20 藤井宏行 )