KREITSEROVA SONATA Op.109-5 Rjat Satiry |
クロイツェルソナタ チョールヌイの詩による5つの風刺 |
KREITSEROVA SONATA Kvartirant sidit na chemodane I zadumchivo rassmatrivaet pol: Te zhe stul’ ja,i krovat’,i stol, I takaja zhe obivka na divane, I takoj zhe “bigus” na obed,- No na vsem kakoj-to novyj svet. Bleshchut ikry polnoj prachki Fekly. Peregnulsja sil’nyj stan vo dvor. Kak nestrojnyj,shalovlivyj khor, Vereshchat namylennye stekla, I zaplaty golubykh nebes Obeshchajut tysjachi chudes. Kvartirant sidit na chemodane. Stekla vymyty. Opjat’ toska i tish’. Fekla,Fekla,chto zhe ty molchish’? Bud’ khot’ ty reshitel’noj i jarkoj: Podojdi,voz’ mi ego za chub I ozhgi ognem vesennikh gub... Kvartirant i Fekla na divane. O,kakoj torzhestvennyj moment! “Ty - narod,a ja - intelligent,- Govorit on ej sredi lobzanij,- Nakonets-to,zdes’,sejchas,vdvoem, Ja tebja,a ty menja - pojmem...” |
クロイツェルソナタ 宿泊客はスーツケースの上に座って 床をじっくりと眺めている 同じ椅子、ベッド、テーブル そしてソファの上には同じクッション 夕食のためのいつものシチュー だが、すべてのものがどこか違う 陽気な見習い掃除婦フェクラは輝く 豊満な体が庭から寄りかかり めちゃくちゃな、しかし陽気なコーラスのように 窓のガラスをキイキイ言わせながら磨いている そして青空にパッチを当てて 幾千もの魔法を約束している 宿泊客はスーツケースの上に座っている 窓はもうピカピカだ、また憂鬱な静けさが支配する フェクラよ、フェクラ、どうして何も言わないんだい? おまえは強気で、そして賢い さあ行って彼の前髪を掴め そして炎のようなくちびるでやつを燃え立たせよ 宿泊客とフェクラは一緒にソファーの上 おお、何と素晴らしい時だろう 「きみは庶民、ぼくはインテリ」 やつはキスの最中にこう言う 「とうとう一緒になれた ぼくはきみを、きみはぼくを理解できたんだ」 |
冒頭に例によって曲名が歌われた直後、ピアノで一瞬だけベートーヴェンのヴァイオリンソナタ「クロイツェル」の導入部のメロディが高鳴ります。でも何でこの内容で「クロイツェルソナタ」と付けられたのでしょうか? トルストイの有名な短編小説に同じ題名のものもありますが、こちらは男が妄想で音楽教師と不倫しているのではないかと思い込み嫉妬に狂って若い妻を殺してしまうといった筋の小説。徹底して人間、特に男の性的な欲望の愚かしさを突いている作品ですから、あんまりこの掃除婦と客がデレデレしている情景とはつながりがあるようにも思えません(小説を読んでいませんので分かりませんけれど)。あえていえば最後にこの宿泊客がいっている「きみは庶民、ぼくはインテリ」というあたりが「クロイツェル・ソナタ」の身分違いの結婚を示しているのかも。あるいはこういうお気楽な展開でこの「インテリ」の欲望が満たされてしまう筋がトルストイに対する当てつけということと読めなくもありません。そしてそういう風に読むと最後のひとことはひときわ痛烈。ひとつ前の曲「勘違い」と合わせて聴くとたいへん面白いです。
チョルーヌイの原詩はもう少し長くて、25コペイカ(ロシアの通貨)のチップをどうこうするといった話があったあとに「フェクラよ、フェクラ」と掃除婦への呼びかけになります。その展開も面白そうなのですがロシア語からうまく訳すのは私の力量を超えてしまいますので割愛しています。まあこのように短くカットされたもの方が音楽的には宿泊客のメランコリーな気分のところのワルツと、ウキウキ気分の掃除婦のポルカとの対比がちょうど2回繰り返される形になってインパクト大。とにかく両者の曲想のギャップが激しいのでそれだけでも笑えてしまいます。
最後は幸せ一杯の叫びで堂々と曲を締めるあたり最高です。このユニークな歌曲集の終わりを締めるのにふさわしい詩と音楽といえるでしょう。
( 2006.05.13 藤井宏行 )