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お道化うた    
 
 
    

詩: 中原中也 (Nakahara Chuuya,1907-1937) 日本
    在りし日の歌 (1938)  お道化うた

曲: 清水脩 (Shimizu Osamu,1911-1986) 日本   歌詞言語: 日本語


月の光のそのことを、
盲目少女(めくらむすめ)に教えたは、
ベートーヴェンか、シューバート?
俺の記憶の錯覚が、
今夜とちれているけれど、
ベトちゃんだとは思うけど、
シュバちゃんではなかったろうか?

霧の降ったる秋の夜に、
庭・石段に腰掛けて、
月の光を浴びながら、
二人、黙っていたけれど、
やがてピアノの部屋に入り、
泣かんばかりに弾き出した、
あれは、シュバちゃんではなかったろうか?

かすむ街の灯とおに見て、
ウインの市の郊外に、
星も降るよなその夜さ一と夜、
虫、草叢(くさむら)にすだく頃、
教師の息子の十三番目、
頸(くび)の短いあの男、
盲目少女(めくらむすめ)の手をとるように、
ピアノの上に勢い込んだ、
汗の出そうなその額、
安物くさいその眼鏡、
丸い背中もいじらしく
吐き出すように弾いたのは、
あれは、シュバちゃんではなかったろうか?

シュバちゃんかベトちゃんか、
そんなこと、いざ知らね、
今宵星降る東京の夜(よる)、
ビールのコップを傾けて、
月の光を見てあれば、
ベトちゃんもシュバちゃんも、はやとおに死に、
はやとおに死んだことさえ、
誰知ろうことわりもない…



( 2019.03.17 藤井宏行 )


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