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Lied II   Op.32-5  
  Sechs Lieder von Heine
歌 U  
     ハイネの6つの歌

詩: ハイネ (Heinrich Heine,1797-1856) ドイツ
    Buch der Lieder - Die Heimkehr(歌の本〜帰郷 1827) 47 Du bist wie eine Blume

曲: ルビンシュテイン (Anton Grigoryevich Rubinstein,1829-1894) ロシア   歌詞言語: ドイツ語


Du bist wie eine Blume,
So hold und schön und rein;
Ich schau dich an,und Wehmut
Schleicht mir ins Herz hinein.

Mir ist,als ob ich die Hände
Aufs Haupt dir legen sollt,
Betend,daß Gott dich erhalte
So rein und schön und hold.

君は花のように
優しく美しく清く
見つめれば切なさが
胸をあつく焦がす

この手を君の頭に添え
神に祈ろう
君よいつまでも
清く美しく優しくあれと


 シューマンの作曲で名高いハイネのドイツ語詩に、ロシアのピアニスト、作曲家で19世紀当時のロシアの指導的音楽家アントン・ルビンシテインが作曲した歌曲です。ドイツロマン派の流れを汲む作風で、この作品もシューマンやメンデルスゾーンを思わせる親しみやすいもの。その美しい旋律でかつては我が国でもかなり人気のあった歌曲のようです。しかし現在ではドイツロマン派亜流のドイツ語歌曲であることが逆に災いしてか、少なくともディスクで耳にするのは難しくなっているようです。
 現在入手可能なほとんど唯一の演奏は、往年の名ソプラノ、エリザベート・レートベルクの1928年のSP音源で、実は前回この詩の歌曲の特集をした時に一緒に取り上げるつもりが、ディスクを手に入れることが出来ずに見送ったのです。その後ずいぶん探したのですが、結局アマゾンで非常に安価で購入できました。http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000025O8A/
 レートベルクはワーグナーで鳴らした名歌手ですが、当時の歌手としてはあまり古めかしさを感じさせず、曲の美しさと歌の上手さを楽しむことが出来ます。不思議なのはヴァイオリン独奏が挿入されていることですが、そういう曲なのか、録音のための編曲なのかはわかりませんでした。
 さて、この作品を取り上げた理由は実は別にあります。我が国における訳詩の先駆け、上田敏がこの詩を訳しており、しかそれがも楽譜に合わせた歌える訳なのです。昨年はかの名高い『海潮音』出版から100年の記念の年でしたが、それに収められた上田訳をここにご紹介しましょう。

「花のをとめ」

妙(たへ)に清らの、あゝ、わが児よ、
つくづくみれば、そぞろ、あはれ、
かしらや撫でゝ、花の身の
いつまでも、かくは清らなれと、
いつまでも、かくは妙にあれと、
いのらまし、花のわがめぐしご。


 目を引くのは、あのラフマニノフ作曲のロシア語訳で話題になったのと同じように「わが児」への詩になっていることです。しかしタイトルは「をとめ」になっており、また厳密には日本語でも「児」は子供以外に若い女性や男女を問わず親しい人に用いることもできます。どう取るかは読む側の感性にゆだねられるということでしょうが、ドイツ語の原詩のどこにもない「あゝ、わが児よ」は、ロシア語訳の影響を臭わせますね。勝手な憶測はともかく、上田はこの訳詩に次のようなコメントをつけています。
「ルビンスタインのめでたき楽譜に合わせて、ハイネの名歌を訳したり。原の意を汲みて余さじと、つとめ、はた又、句読停音すべて楽譜の示すところに従ひぬ。  訳者」
 この訳はレートベルクの録音より20年以上前のもので、上田氏の音楽的教養の豊かさにも驚かされます。

( 2006.03.25 甲斐貴也 )


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