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Le Spectre de la Rose   Op.7-2  
  Les Nuits d'Été
バラの幽霊  
     夏の夜

詩: ゴーティエ (Théophile Gautier,1811-1872) フランス
    La Comédie de la Mort  Le spectre de la rose (1837)

曲: ベルリオーズ (Louis Hector Berlioz,1803-1869) フランス   歌詞言語: フランス語


Soulève ta paupière close
Qu'effleure un songe virginal!
Je suis le spectre d'une rose
Que tu portais hier au bal.
Tu me pris encore emperlée
Des pleurs d'argent de l'arrosoir,
Et,parmi la fête étoilée,
Tu me promenas tout le soir.

O toi qui de ma mort fus cause,
Sans que tu puisses le chasser,
Toutes les nuits mon spectre rose
A ton chevet viendra danser.
Mais ne crains rien,je ne réclame
Ni messe ni De Profundis
Ce léger parfum est mon âme,
Et j'arrive du paradis.

Mon destin fut digne d'envie,
Et pour avoir un sort si beau
Plus d'un aurait donné sa vie;
Car sur ton sein j'ai mon tombeau,
Et sur l'albâtre où je repose
Un poète avec un baiser
Ecrivit: “Ci-gît,une rose,
Que tous les rois vont jalouser”.

あなたの閉じた目をあけて
乙女の夢にまどろんでいるまぶたを!
あたしはバラの幽霊
昨日舞踏会であなたがつけていた花よ
あなたは真珠の露を浴びていたあたしを
じょうろから流れる銀の涙から奪い取って
そして弾けるような舞踏会の中で
一晩中あたしを付けていたのよ

あたしが死んだのはあなたのせい
そうでなければ逃れることができるのだけれど
毎晩、あたし、バラの幽霊は
あなたのベッドにやってきて踊るわ
でも怖がらないで、あたしは何も求めない
ミサも、プロファンディスもいらないわ
このかすかな香りはあたしの魂
あたしは天国からやってきたの

あたしの運命はもっと羨んでもらわなくては
死んでしまうのも悪くないわ
幾人の人がその命を捧げるのでしょう
あたしがお墓にしているあなたの胸を求めて
そしてあたしが横たわっている石膏に
ひとりの詩人がキスをして
そして書くの「ここにバラは眠れり
すべての王が羨む場所に」と


けっこう怖いお話のようにも思えますが、「何も求めない、怖がらないで」って言っていますので孫や子の代まで祟ったりとかはしないのでしょう。でも一晩中バラの幽霊が枕元で踊りを踊るっていうのも、私はちょっとイヤなものがあります。胸飾りにバラの花を付けていたのは女の子ですから、もしかするとこのバラの幽霊、男かも知れませんが(実際男声で歌われることも)、ちょっと倒錯の香りを感じつつも女言葉で喋らせてみました。

上で語られているプロファンティスというのは聖書の詩篇にある言葉De profundisで、日本語では「深き淵より」と訳されています。レクイエムの詠唱にも取り入れられたりしていますから、意訳して「ミサも、レクイエムもいらないわ」としても良いところかも知れません。ひとりの詩人がキスをして、「ここにバラが眠る」と書きつける石膏というのはこの女の子の真っ白な胸でしょうか?これはなんとなくエロティックな情景ではあります。

このゴーティエの詩を元にした「バラの精」というバレエもあるようですが、今回取り上げるのはベルリオーズの傑作歌曲集「夏の夜」の第2曲です。
管弦楽伴奏で聴くと、まるでドニゼッティかベルリーニのオペラの一節のような濃密なロマンが非常に美しく、フランスの歌曲の中でも異彩を放っている作品です(6分近く演奏にかかる長大さも含めて)。幽霊の歌なのですが雰囲気はオペラ「ノルマ」のアリア「清らかな女神よ」みたいなゆったりした歌なのでおどろおどろしさは全くありません。

ヘレヴェッへがシャンゼリゼの古楽器オーケストラを振って、ソプラノのブリジッテ・バレイの歌っている盤(ハルモニアムンディ・フランス)を最近聴きましたが、彼女の清楚な響きの声の上に古楽器の不思議なハーモニーが溶け合って大変斬新な音楽になっていて感動しました。歌曲集6曲いずれも素晴らしいですが、とくにこの曲の響きの不思議さは群を抜いています。

あとはロス・アンヘレスの可憐な幽霊が私としては好みです。

( 2006.04.14 藤井宏行 )


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