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Loveliest of trees    
  A Shropshire Lad
この世で一番いとおしい花  
     シュロップシャーの若者

詩: ハウスマン (Alfred Edward Housman,1859-1936) イングランド
    A Shropshire Lad 2 Loveliest of Trees

曲: バターワース (George Sainton Kaye Butterworth,1885-1916) イギリス   歌詞言語: 英語


Loveliest of trees,the cherry now
Is hung with bloom along the bough,
And stands about the woodland ride
Wearing white for Eastertide.

Now,of my threescore years and ten,
Twenty will not come again,
And take from seventy springs a score,
It only leaves me fifty more.

And since to look at things in bloom
Fifty springs are little room,
About the woodlands I will go
To see the cherry hung with snow.

この世で一番いとおしい花 桜は今
枝いっぱいに咲き誇りながら
森の乗馬道の傍らに立っている
復活祭の真っ白い衣装を着て

私の寿命の70歳のうち
20年はもう戻ってこない
70年分の春からその年を引けば
もはや50年しか残っていないのだ

この花の盛りを眺めるには
50年分の春ではあまりに少ない
だから私は森の道に行く
雪のように白い桜を見るために



まだ20歳の若者だというのに、この醒めた人生感はどうでしょう。なんだか日本の和歌、古今集あたりにありそうな心情を歌った歌ですが、こんなのが19世紀のイギリスで作られたというのはとても興味深いことです。しかも日本人の専売特許(と日本人は思っている?)短い命をぱっと散らせてしまう桜の花見によせる気持ちをこれほどまでに歌いこんでいるとは!
タイトルはLoveliest of treesですから「木々の中で最も素敵なもの」というのが直訳となり花ではなくて木にしなければいけないところでしょうが、詩としては桜のことを言っていますから日本人の感覚に合わせて「この世で一番いとおしい花」とさせて頂きました。
(なんだかSMAPのヒット曲のタイトルみたいになってしまいましたが)

ちなみにここにある70歳の表現“threescore years and ten”は旧約聖書の詩篇90-10に基づくのだそうで、score=20にあたります。3×20+10で70なのですね。でも聖書にあるくらいですから西洋人の寿命、昔から長かったということでしょうか。まあ100歳200歳当たり前の長寿者がお話の中ではごろごろ出てくる旧約聖書ですからかなり割り引いて考えなければならないのでしょうけれども。
この詩が含まれている「シュロップシャーの若者」は第一次世界大戦に出征した若者たちが愛読していたと言いますが、まさに「咲いた花なら 散るのは覚悟」といった心情も垣間見えるような気もします(もちろんそればかりがこの詩集のテーマではないですが)。この詩は詩集の2番目に当たります。
この詩にはアーサー・サマヴェル(1863-1937)の書いたイギリス民謡風の夢見るように美しい曲もあるのですが残念ながらあまり知られていませんので、やはり第一次大戦で戦死したジョージ・バターワースの書いた歌曲集「シュロップシャーの若者」の第一曲を飾る曲の方をここでは取り上げます。
(サマヴェルのものもバターワースのものもこの詩を第1曲に持ってきています。またバターワースの書いた6曲のうち4曲の詩が両者でだぶっており聴き比べるのも興味深いところです。曲を付けたくなる詩というのはどうしても似てくるものなのでしょうか)

さて、バターワースの付けたこの曲、ピアノの美しい伴奏に彩られながら訥々と語るかのように歌われます。残りの5曲のようにあまりはっきりした分かりやすいメロディではないので最初聴いたときはあまり強い印象を受けなかったのですが、聴き込めば聴き込むほどに味わいが深まる曲です。「復活祭の衣装を着て」のところで花の輝きを表すかのように一瞬だけ力強くなりますが、あとは諦観に満ちているこの詩の内容そのままにひたすらひそやかに、静かに歌われています。
ベンジャミン・ラクソンやブリン・ターフェル、ステファン・ヴァーコーなどバリトン歌手の録音が非常に多いこの歌曲集ですが、この曲は私はハイテナーで聴いた方が味があるように思えます。IMPレーベルにあったアンソニー・ロルフ・ジョンソンの歌ったこの曲が溜息が出るようなリリカルな美しさに満ち溢れていました。

今年も桜の季節を迎える前にしみじみ聴くのにこれほど打ってつけなものはない詩と音楽です。聴かれたことのない方はぜひお試しください。ターフェルの歌ったDG盤が入手容易と思いますし素晴らしく立派な歌唱です。

( 2006.03.26 藤井宏行 )


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