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おくめ    
 
 
    

詩: 島崎藤村 (Shimazaki Touson,1872-1943) 日本
    若菜集−六人の処女−  

曲: 小山清茂 (Koyama Kiyoshige,1914-2009) 日本   歌詞言語: 日本語


こひしきまゝに家を出で
こゝの岸よりかの岸へ
越えましものと来て見れば
千鳥鳴くなり夕まぐれ

こひには親も捨てはてゝ
やむよしもなき胸の火や
鬢の毛を吹く河風よ
せめてあはれと思へかし

河波暗く瀬を早み
流れて巌に砕くるも
君を思へば絶間なき
恋の火炎に乾くべし

きのふの雨の小休なく
水嵩や高くまさるとも
よひよひになくわがこひの
涙の滝におよばじな

しりたまはずやわがこひは
花鳥の絵にあらじかし
空鏡の印象砂の文字
梢の風の音にあらじ

しりたまはずやわがこひは
雄々しき君の手に触れて
嗚呼口紅をその口に
君にうつさでやむべきや

恋は吾身の社にて
君は社の神なれば
君の祭壇の上ならで
なにゝいのちを捧げまし

砕かば砕け河波よ
われに命はあるものを
河波高く泳ぎ行き
ひとりの神にこがれなむ

心のみかは手も足も
吾身はすべて火炎なり
思ひ乱れて嗚呼恋の
千筋の髪の波に流るゝ



( 2019.01.15 藤井宏行 )


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