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Vezde-nad lesom i nad pashnej   Op.18a-3  
  Iz liricheskoj tetradi
あらゆるところで-森の中でも野原でも  
     抒情の手帖より

詩: ブローク (Aleksandr Aleksandrovich Blok,1880-1921) ロシア
      Везде?над лесом и над пашней

曲: シャポーリン (Yuri Shaporin,1887-1966) ロシア   歌詞言語: ロシア語


Vezdje-nad ljesom i nad pashnjej,
i na zjemlje, i na vodje -
takoju blizkoj i fcherashnej
ty mnje javljajeshsja-vezdje.

Tvoj stan pod ljetnej dushnoj tuchej,
Tvoj stan,zakutannyj v mekha,
fsegda poju - fsegda pevuchij,
klubjas' tumanami stikha.

I cherez gody,cherez vody,
i v svetlyj chas, i vo khmelju
tebja,Ditja mojej svobody,
podruga Svetlaja,ljublju.

あらゆるところで-森の中でも野原でも
大地の上でも 水の中でも
とても近くに、すぐそばに
あなたは僕の前に現れる-あらゆるところで

あなたは、真夏の黒い雷雲の下でも
分厚い毛皮を着ていても
僕は分かる-いつでもメロディのように
詩の響きが心に響くように

何年も 時が流れて行っても
楽しいときも つらいときでも
あなた、私の自由の子は
素敵な私の友だ 愛してる


ユーリ・シャポーリンという作曲家はあまりご存知ない方も多いかも知れません。あるいはショスタコーヴィチの評伝などで、彼が批判した体制派作曲家、といった語り口で紹介されることもあるでしょうか。シチェドリンやスヴェトラーノフの作曲の師匠としての方が今や知られているような感じの人ですが、オペラ「デカブリスト」はじめソヴィエトでは評価されていた作品も多くあった人でもあります。そんな彼はプーシキンやチュチェフ、フェートなどロシアの昔の詩人の詩に付けたロマンスを結構たくさん作っていて、中でもこのロシア革命前後に活躍したアレクサンデル・ブロークの詩にはいろいろ付けているようです。これはそんな中のひとつ。恋人を讃える爽やかなポエムです。ただ恋人の形容のしかたは少々ユニークかも。帝政ロシア末期に活躍した象徴派詩人・ブロークの詩は私もまだ全貌がよく掴めていないのであまりこれ以上コメントできません。すみません。

で、そのスターリン時代のソヴィエトで高く評価された彼の音楽ですが、なんというかロシア臭がほとんどしない不思議なものでした。歌曲についてみるとフランス仕込みのセザール・キュイの流れを汲むかのようなエレガンス。レイナルド・アーンかシャルル・グノーのサロン風歌曲といっても信じてしまいそうです。これだけ取り上げてあれこれいうのは危険ですけれども、当時推進されていた社会主義リアリズムっていったい何なの???という疑問を持たせる問題作揃いではありますが、まあゲージュツ家に小難しいことを許さず、一般の大衆労働者が聴いて気持ちよくなりさえすれば(あるいは権力者が聴いて気持ちよくなりさえすれば?)スタイルは何だって構わなかったということなのかも知れません。今でも社会主義という権力の代わりに、コマーシャリズムという権力がいて、「楽しくなければ(ヒットしなけりゃ?)音楽じゃない」みたいなキャンペーンを露骨にではないですが張ってくれていたりするものですから、私のような小難しい音楽も愛する者としては悲しくなってしまうような状況にそこかしこで出会いますから、処刑の危険がないだけであとはあんまりスターリン時代のソヴィエトと違わないのかも知れませんが。

とまあ愚痴はさて置いても、このシャポーリンの歌曲なかなか良いです。ロシア語でこういう西欧風のロマンスが珍しいということもありますが、グリンカの歌曲がそのままロシア化せずに進化したような音楽の雰囲気が私にはある意味好ましいということもあるのだと思います。残念ながら現在はほとんど聴けない歌曲作品と化してしまいましたが、もしシャポーリンという名をロシア歌曲集で見かけたらちょっと気にかけてみてください。中古でけっこう法外な値の付いているRussian Discのショスタコーヴィチ自演による「ユダヤの民族詩」のフィルアップとして、ソビエトでは50〜60年代に活躍したメゾ歌手ドルハノーヴァの歌で6曲、このシャポーリンの歌曲が歌われているのを今回改めてしみじみと聴き、ちょっと見直したので取り上げてみた次第です。

( 2006.02.16 藤井宏行 )


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