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Elegy For J.F.K.    
 
JFKのためのエレジー  
    

詩: オーデン (Wystan Hugh Auden,1907-1973) イギリス
      

曲: ストラヴィンスキー (Igor Stravinsky,1882-1972) ロシア   歌詞言語: 英語


詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
ひとりの正しき男が死ぬとき
哀悼と称賛
悲しみと喜びはひとつ

なぜあのとき なぜあそこで
なぜあのように われらは叫ぶ 彼は死んだのだ?と
天は黙っている

彼はありのまま 彼であった
彼がどのように運命づけられているのかは
われら次第だ

忘れることなく 彼の死を
いかにわれらが生き方を決めるのかが
決めるのだろう その意味を

ひとりの正しき男が死ぬとき
哀悼と称賛
悲しみと喜びはひとつ

(歌詞は大意です)

これは歌詞も英語の上にロシア音楽の情緒みたいなものは全くないですし、作曲当時はアメリカに既に移住していたストラヴィンスキーの作品なのでロシア歌曲という範疇に入れてはいけないかも知れません。1964年、暗殺されたアメリカのケネディ大統領を追悼する歌で、バリトンまたはメゾソプラノのソロに、3本のクラリネットの伴奏が付くというストラヴィンスキーらしい興味深い編成を持った曲です。ブリテンの歌曲などでよく名前を見かける詩人・W.H.オーデンの追悼詩はちょっと感傷的に過ぎるような気も私には思われますし、ストラヴィンスキーの曲も彼にしては地味な色彩感ですが、こういう作詞・作曲の取り合わせの曲がJFK追悼のために作られたのだ、ということは知っておいても良いでしょう。
芸術の2つの側面、ミューズの神に突き動かされて詩や音楽が自然にわき上がってくるのと、芸術家自身も生活がありますからミューズが光臨しなくても作品を作らなければならないという面からすると、このケネディ追悼というイベントに合わせたお仕事として、どちらかというと後者の面が強く出た作品のように私には思えてなりません。木管と声がめくるめく綾を織りなす彼の傑作歌曲群と並べるのは酷にしても、正直私には圧倒的な魅力を感じる曲でなかったのも事実です。

それでも不思議な雰囲気をたたえる曲ではあります。たとえそんな請負仕事であってもそこで見事なプロの技を見せてくれているからでしょう。しかしこの曲、ストラヴィンスキーが80歳過ぎての作品なのですね。それだけでも凄いものがあると思われませんか?
私が聴いたのはアンサンブル・アンテルコンテンポランの伴奏にJ.シャーリー=カークのバリトンで歌われたDGの20世紀音楽シリーズにあるストラヴィンスキー歌曲集のみですが、緻密な音楽作りは見事です。この曲の評で「俳句Likeな曲」というのがありましたが、確かに無駄を極限までそぎ落とした、研ぎ澄まされた音楽であることは確かです。ミーハーな私にはそれで良さが分からないのかも知れませんなあ。

( 2006.02.18 藤井宏行 )


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