Plach ob umershem mladence Op.79-1 Iz Jevrejskoj Narodnoj Po`ezii |
死んだ赤ん坊を嘆く ユダヤの民族詩より |
詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
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お日様と雨 光と暗闇 もやが降りてきて 月が霞んだ 生まれた子は誰だい? 男の子、男の子さ 名前は何と付けた? モイシェレ、モイシェレさ どこでモイシェレをあやすのさ? 揺りかごの中さ 何を食べさすのさ? パンとネギだよ どこに埋めるのさ? 墓の中だよ おお、その子は墓の中、墓の中 モイシェレは墓の中、ああ! |
ソプラノとメゾソプラノが美しくハモりながら悲しげなレクイエムを歌う「ユダヤの民族詩」の冒頭の音楽の迫力!
いきなり頭を殴られたようなインパクトです。ロシア帝国時代の差別に満ちた厳しい暮らしの中、生まれたばかりの赤ん坊を死なせてしまった家族の嘆きなのか、エキゾチックな響きながら心にジンと染み入るメロディです。帝政ロシア時代はたいへんユダヤ人に対する民族差別が激しかった時代だったのだそうで、この歌曲集、数多くの悲しみとほんの少しの喜びとが大変印象的に取り上げられており、歌詞を見るだけでもたいへん心に染み入るものがあります。
そしてまたスターリン治世下のソヴィエトも暗く苦しい時代であったが故にか、またユダヤ人差別が激しかったといいます。そんな中でこのような歌曲集を書いたショスタコーヴィチ!
この曲は、冒頭の悲しげな情景描写のデュエットのあと、中間部の問と答のところは問いかけがメゾ、答がソプラノの掛け合いで、そしてまた最後の「おお、その子は墓の中」のところで最初の悲しいハーモニーが再現されます。
あの有名なミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」の舞台そのままの雰囲気で、ロシアの寂しい村に集団で暮らすユダヤ人たちの悲しみや喜びが色とりどりに歌われているメロディも、ショスタコーヴィチの作品としてはかなり異彩を放っています。まるで本当のユダヤの民謡のように聴こえるのですが、実際は彼の作曲したもののようです。ショスタコーヴィチの多くの歌曲作品にみられがちな音楽の晦渋さがあまりないので、彼の音楽にあまりなじみがない方にも聴きやすいと思いますので、彼の歌曲を聴いてみようという方には入門にはちょうど良い作品でしょうか。ソプラノ、メゾソプラノ、テノールの3人の歌手がいろいろな組み合わせで歌ってくれているのも変化があって楽しいですし、オーケストラ伴奏に編曲されたものの不思議な色彩感も面白いです。
ハイティンク/アムステルダムコンセルトヘボウ管の録音した交響曲15番のフィルアップとして収録されているもの・ゼーダーストレーム(Sop)、ヴェンケル(MS)、カルチコフスキー(Ten)は日本でも比較的入手が容易ではないかと思います。
管弦楽伴奏になるとちょっと大仰に感じられるところがなくもないですが、色彩感がいろいろと溢れた方が聴きやすいことも確かです。
この「民族詩」のテキスト、大元のイーディッシュ語で書かれたものは帝政ロシア時代より伝わっているもので、作者も不詳のようですので著作権は問題なさそうなのですが、1948年にソコロフによって出版されたロシア語訳はまだ著作権が生きている可能性があります。私は邦訳や英訳を参照しながらこのロシア語から訳しましたのでイーディッシュ語の原詩は全く参照できておりません。
また「驚くべきショスタコーヴィチ」(S.ヘーントワ著 亀山郁夫訳 筑摩書房)によれば、作曲者自身によっても歌詞のあちこちに手を入れているのだと書かれています。この曲の冒頭などもそうなのだそうですが、全曲でどこがどうなのかすべては拾いきれそうもありません。
従って翻訳権に関して権利関係には問題が生じるかも知れませんが、とりあえず訳詞のみのUPということで、あとはもし居られれば著作権者の方からのクレーム等をお待ちしたいと思います。
余談ですがこの「驚くべきショスタコーヴィチ」のp.39に、この「ユダヤの民族詩」の初演時(1955)の写真が載っています。ショスタコーヴィチ自身のピアノにドルリアク(Sop)・ドルハノヴァ(MS)・マスレンニコフ(Ten)のソリストたち。ドルハノヴァの回想によれば初演は大成功だったのだとか。
( 2006.02.16 藤井宏行 )