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V albome   Op.49-4  
  5 romansov
アルバムの中で  
     5つのロマンス

詩: レールモントフ (Mikhail Yur'yevich Lermontov,1814-1841) ロシア
    В альбоме (1840)  Lines written in an album,at Malta 原詩: Lord Byron バイロン

曲: アレンスキー (Anton Stepanovich Arensky,1861-1906) ロシア   歌詞言語: ロシア語


Kak odinokaja grobnica
Vnimanje putnika zovjot,
Tak eta blednaja stranica
Pust milyj vzor tvoj privlechjot.

I jesli, posle mnogikh let,
Prochtesh ty, kak mechtal poet,
I vspomnish, kak tebja ljubil on,
To dumaj, chto jego uzh net,
Chto serdce zdes' pokhoronil on.

まるで孤独な墓が
旅人の注意を引き付けるように
この蒼ざめたページが
あなたのやさしい視線を引き付けてくれたなら

そしてもし 何年も後になって
あなたが読んでくれて この詩人の夢を
そして思い出してくれたなら 彼があなたを愛していたことを
その時は思って欲しい 彼はすでに去って
その心をここに埋めたのだと


レールモントフという詩人はバイロンの生き方に強い影響を受けていたといわれていますけれども、実際にバイロンの詩を自らロシア語に訳していたとは知りませんでした。バイロンがマルタ島を訪れたときに書いた詩”Lines written in an album, at Malta”を確かにレールモントフは訳しているようなのですが、今回頑張ってこのロシア語の詩を読み込んでみると、微妙にバイロンの原詩とは違っています。なんといいますかレールモントフの方が過度にロマンティックで感傷的。全く別の詩とまでは行きませんが、読んでみての雰囲気はだいぶ違います。
しかし、この2人ともが若くして熱情の中に死を迎えてしまうというのは象徴的。バイロンは戦病死、レールモントフは決闘による死と原因は違いますが、いずれも生き急いだがゆえの死です。そして彼らの残したこんな詩が現在の私たちにとって”Lines written in an album”になっているというのも感慨深いことです。人は死してもなお何かを残す...

この詩(レールモントフのロシア語の方)にメロディを付けているのがチャイコフスキーの流れを汲むロシアのロマンティスト、アントン・アレンスキーです。今年没後100年のメモリアルイヤーなのですが、マイナー過ぎてかほとんど誰も取り上げないようなので、私はここでほそぼそとお祝いしましょう。この曲は彼がよく書いているチャイコフスキーばりの甘く切ない美しいメロディーではないですが、祈りに満ちた静かな雰囲気はこの詩の伝えたいものにピッタリでしょう。”English poet in Russian Songs”という非常に興味深いロシア歌曲のアンソロジー(hyperion)の中で、サヴェンコのバリトンにブロークのピアノ伴奏で収録されています。

バイロンの方の原詩とその訳も載せておきましょう。英語が難しいのでうまく訳せていないところはご容赦ください。

  As o’er the cold sepulcher stone
  Some name arrests the passer-by;
  Thus, when thou view’st this page alone,
  May mine attract thy pensive eye!

  And when by thee that name is read,
  Perchance in some succeeding year,
  Reflect on me as on the dead,
  And think my Heart is buried here.

   冷たい墓石の上の
   誰かの名が通りすがりの旅人の目をとらえるように
   あなたが ひとりこのページを眺めるときに
   私の名が あなたの愁いに満ちた目にとまって欲しいものだ

   そしてこれから幾年かたったあとで偶然に
   あなたにその名前が読まれるのならば
   その時には 私は死んだものと思って欲しい
   私の心は この中に埋められているのだ

もともとこの詩は、訪問帳(ゲストブック)に記帳するときに気の利いた人が添えるちょっとした詩のスタイルで、バイロンもそんなシチュエーションで書いたものが今に残っていることのようですが、そういうことを知ってから読むと、またいろいろ別な感想が浮かんできませんでしょうか。誰ですか?!「こんな詩がうちのホームページのゲストブックに書き込まれていたらちょっと怖いかも」なんて思った人は...

( 2006.02.03 藤井宏行 )


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