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Sommerfäden   Op.2-1  
  Zwei Gesänge
糸遊(いとゆう)  
     2つの歌

詩: レーン (Dora Leen,1880-1942) オーストリア
      

曲: シュレーカー (Franz Schreker,1878-1934) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Wenn die Sommerzeiten enden,
Wandelt licht im Abendschein,
Herbsttagssegen in den Händen,
Still Frau Holde durch den Hain.

Und mit leisen Liebesreden
Streut als lieblich holde Spur
Weisse,weiche Sommerfäden
Weithin sie durch die Natur.

Sommerfäden zieh'n durch's Land,
Leise nah'n sie und verschweben,
Fromme Wünsche,still gesandt,
Mögen ihnen Weisung geben:

“Sommerfäden,schwebt dahin,
Grüßt mir nah' und grüßt mir ferne
Liebe,treue Augensterne;
Sommerfäden,schwebt dahin.”

Und Frau Holde lächelt leise,
Und die Sommerfäden
Zieh'n ihre rätselvole Reise
Schimmernd zu dem Liebsten hin.

夏の終わり 
夕映えの光の中 
秋の祝福をたずさえ 
女神ホルデは静かに森をゆく

そしてひそやかに愛を語る
優しく美しい軌跡として 
白い柔らかな糸遊を撒いてゆく
野を越えてどこまでも

地の上を流れゆき 
あの方にひそやかに近づき漂う糸遊に 
あだな望みを言葉なく送る
頼みごとをしよう

「糸遊よ あそこへ漂っていって 
近くからも遠くからも
愛しい人 誠実な瞳に挨拶しておくれ 
糸遊よ あそこに漂っていって」

すると女神ホルデはやさしく微笑み 
糸遊は謎めいた旅を 
きらめきつつ続ける 
最愛の人のところまで


※糸遊
早春と晩秋に蜘蛛の糸が空中を浮遊してきらめく現象で、わが国では俳句の春の季語である。陽炎(かげろう:地面から立ちのぼる水蒸気により風景が揺らめいて見える現象)の別名にも用いられる。

糸遊に結びつきたる煙哉 (いとゆふにむすびつきたるけむりかな) 芭蕉

この作品の前年にシュレーカーが合唱曲を作曲している詩人、ルドルフ・バウムバッハに詩集 ?Frau Holde? があり、その冒頭にワーグナーによる『タンホイザー』の解説が引用されている。ドラ・レーンの ?Frau Holde? も、『タンホイザー』で羊飼いが「女神ホルダ Frau Holda が山から降りてくる、野原と川を越えてくる」と歌う、古代ゲルマンの女神ホルダを示唆するものと見てよいだろう。

 「古代ゲルマンの女神ホルダは、友好的で穏やかで慈悲深く、国じゅうをめぐるその一年の移りゆきが野に栄えと実りをもたらしたが、キリスト教の導入に伴い、ヴォーダンや他の神々と運命をともにせざるを得なかった。神々への信仰は民衆のなかにあまりにも深く根づいていたので、神々の存在と神秘の力は完全には否定されなかったものの、以前の祝福に満ちた影響力はしかし疑問視され、邪悪なものへと作り変えられたのである。
 ホルダは地下の洞窟のなかへ、山懐の内奥へと追放された。彼女が出てくれば禍事をもたらし、彼女の従者は死霊の軍勢に似たものであった。後には(彼女の穏やかな、自然を活気づける支配力は、庶民のあいだにはなおも生き続けていたのだが)彼女の名前はウェヌスの名前とさえ融合した。不吉な、邪悪で官能的な快楽へと誘惑する妖魔的な存在のあらゆる表象は、よりいっそう妨げられることなくウェヌスの名に結びついたのである。」
(浅見龍之介訳)
リヒャルト・ワーグナー著『タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦』(1845)序文より

***

CDではルチア・ポップの名盤 “Jugendstil-Lieder” に入っていますが、外盤の英訳からの重訳と見られる国内盤の対訳が意味を取り辛いので、拙訳が参考になるかと思います。

今回のシュレーカー3曲の対訳は、今秋発売を予定する石井真紀さんのCDのために制作しましたが、石井さんのご厚意により、CD発売前に「詩と音楽」20周年記念投稿とさせていただきました。

( 2018.08.06 甲斐貴也 )


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