"ドイツ・リートとは"に代えて
ドイツ・リートあるいは芸術歌曲の定義について私には述べることはできません。代わりに私が普段聞いているものを紹介します。それによって私が聞いているドイツ・リートとはどんなものかその範囲を知っていただくことができると思います。
どんな曲か。
クラシックの中でのジャンルで言うと声楽曲と言われる分野です。その中でも文学的な詩をテキスト(歌詞)にしてメロディーがあり、それにピアノ伴奏を伴った独唱曲がほとんどです。テキストはほとんどドイツ語の詩にですが、モーツアルトには一部フランス語に付曲されたものもあります。
どんな作曲家の曲か。
LP,CDやコンサートで聞く機会の多い作曲家はWolfgang Amadeus Mozart(1756-1791),Ludwig van Beethoven(1770-1827),Franz Schubert(1797-1828),Carl Loewe(1796-1869),Felix Mendelssohn(1809-1847),Robert Schumann(1810-1856),Johannes Brahms(1833-1897),Hugo Wolf(1860-1903),Gustav Mahler(1860-1911)とRichart Strauss(1864-1949)です。
モーツァルトは、ごく少数ですが、1785年から91年にかけて魅力的なリートを作曲しました。1787年には、続けざまに10曲近く作曲していることから、この年を“歌曲の年”と呼ぶこともあります。モーツアルトの歌曲はほとんどが詩の各節とも同じメロディー・伴奏で繰り返される有節歌曲です。中には、詩の各節の展開に合わせ、異なった旋律をつけている"すみれ","夕べの思い"などがあります。モーツァルトが詩の内容から作曲を試みた作品です。
ベートーヴェン(1770-1827)は、ドイツ・リートの分野でも重要な作品を残しています。初期の作品には"思い","アデライーデ"をはじめとする優れた作品が50曲以上あります。彼はリートの中で初めて《はるかなる恋人に》で、数曲をまとめて演奏する「連作歌曲」の形式を採用しました。
“歌曲の王”シューベルト(1797-1828)は、生涯に600曲余りのリートを作曲しています。ゲーテ、シラー、ハイネ、ミュラーといったドイツの詩人の存在も大きかったようです。シューベルトは、ゲーテの詩に対し、"野ばら","魔王","ミニョンの歌","月に寄せて"等、多くの名作を残しています。ミュラーの詩による連作歌曲集"美しき水車小屋の娘","冬の旅"そして、厳密な意味での連作歌曲ではありませんが、死後、彼の遺作歌曲をまとめて出版した曲集"白鳥の歌"は、“3大歌曲集”といわれています。
シューベルトとほぼ同時代のレーヴェ(1796-1869)は、40年以上という長い創作期間のあいだに約600曲の歌曲を作曲しています、特にバラードと呼ばれる分野で数多くの傑作を残している。ゲーテの詩による"魔王"は有名です。
メンデルスゾーン(1809-1847)も数は少ないが魅力的な作品を残しています。最も有名なリートは"歌の翼に"です。
シューベルトに続く大きな存在はシューマン(1810-1856)です。彼はクララとの結婚を間近に控えた1840年に突然リートの作曲を始め、この年だけで130曲あまりもの作品を作りました。ピアニストでもあった彼の作品は、歌とピアノが全く対等におかれていて、ピアノの独奏曲ともいえるような伴奏の上に、独唱部をおいているようです。連作歌曲"リーダークライス","詩人の恋","女の愛と生涯"などが代表作です。
ブラームス(1833-1897)も、優れたリートを残した作曲家の一人です。"五月の夜","永遠の愛","日曜日"や連作歌曲"マゲローネのロマンス"など重厚な作品が多くあります。
ウィーン生まれのヴォルフ(1860-1903)は、詩のリズムや言語の韻律に添ったメロディーをつける手法で、300曲におよぶリートを作曲しています。一人の詩人の詩をまとめて作曲した作品群が有名でシューベルトと並び称されるほどの、重要なドイツ・リート作曲家とみなされています。代表作に、"メーリケ歌曲集","ゲーテ歌曲集","アイヒェンドルフ歌曲集"などがあります。
マーラーの歌曲は、彼の作品の中でもおおきなな比重を占めている。9つの交響曲も、うち4曲は声楽を伴ったもの。"嘆きの歌","さすらう若人の歌"など、詩も自分で書いた作品のほかは、古い民謡からとったものが多い。"こどもの不思議な角笛","亡き児をしのぶ歌"などその代表的なものです。
シュトラウスは、作品数は約200曲におよぶ。《献呈》《子守歌》《4つの最後の歌》などが有名です。
マーラー、シュトラウス二人に共通していることとして、これまでピアノ伴奏が主体であったリートから、オーケストラ伴奏によって表現領域の拡大を試みたことがあげられます。
機会は少ないですがそのほかに、ワーグナー、リスト、ショパンといった作曲家にも歌曲作品があります。最近は、Fanny Mendessohn,Clara Schumann, Alma Mahler といった女性の作った歌曲も取り上げられます。
20世紀に入ってからの作曲家で、ハンス・プフィツナー(1869-1949)、マックス・レーガー(1873-1916)、ヨーゼフ・マルクス(1882-1964)、オトマール・シェック(1886-1957)らがいます。
どんな人が歌っているのか
ドイツ・リートの歌い手のほとんどはオペラ歌手である場合が多いようです。中にはオペラの舞台にはほとんど立たずに歌曲コンサートを中心に活躍した歌手もいます。例えば、Elly Ameling, 白井光子などです。
私の持っている録音で比較的多いのは男性ではDietrich Fischer-Dieskau、Hermann Prey、Gerhard Hüsch、Ernest Häfliger、Hans Hotter、Peter Schreier、Olaf Bär、Robert Holl、Andreas Schmidt。
女性では Elisabeth Schwarzkopf、Janet Baker、Gundra Janowitz、Elly Ameling、Jessey Norman、Brigitte Fassbänder、Nathalie Stutzmann、Barbara Bonney。
ピアノ伴奏はどんな人
もちろんピアニストが多いのですが、歌曲の伴奏を活動の中心においている人には名手と言われ多くの歌手の伴奏を勤めている人が何人かいます。Eric Werba、Gerald Moore、Dalton Baldwin、Hermuth Deutsch、Geofley Parsons、Rudluf Jansen、Julius Drake。
時として有名なピアニストが伴奏を勤めることもあります。リヒテル、ホロヴィッツ、ポリーニ、ブレンデル、内田光子。
また指揮者がビアノ伴奏をうけもつこともあります。Leonard Bernstein、Wolfgang Sawallisch、James Levine、Daniel Barenboim、Christoph Eschenbach(この二人はもともとビアニスとですが)
ドイツリートはだいたい2〜5分程度のものが多くその他の分野の作品に比べると非常に短い作品ばかりです。しかも、歌手とピアノ伴奏という2名で作り上げる演奏の世界でオーケストラに比べると地味な存在です。しかし、そのこぢんまりとした演奏の中に凝縮された小宇宙が存在するのです。