マティアス・ゲルネ:コンサート
シューベルト3大歌曲集
 
 
第1夜 「美しい水車小屋の娘」 12月11日
   前回のHOLLの時、伴奏から重たかったことが頭に残っていたため、最初の伴奏から”ああ、やっぱりこの響きだと小川の流れを感じられる”と思いました。 歌い始めた途端、まろやかな声と繊細な響きに、うっとりします。ところが、2曲目、3曲目の高音(D,Eくらいの音)で少しピッチが高く不安定な感じを受け落ち着きません。音が上ずっていると言うところまではいかないのですが響きが高めと言うか、填っていないような気がしました。ただ低くなるよりは声の調子としては良い状態なので心配はしていません。その後は落ち着いてきて音に対して気にならなくなり、また没頭出来るように成りました。
ゲルネもかなり体を動かす人ですね!。HOLLのを聴いていなければもっと驚いたかも知れません。英世はちょっとビックリしていましたから。
   柔らかい魅力的な声に加えて、一体何種類の声の出し方が出来るのだろうと不思議に思うほどで、一旦頭の後ろまで行ってから額に抜けていくような声が有るかと思えば、ストレートに前に出ていく声、少し曇った奥の方で響く声等々。それらを自在に操りながら自分のイメージするこの若者を創り上げていっていると感嘆しました。 ただ、英世も言っておりましたが”繊細すぎる”気がするのです。私自身はともすれば繊細さに欠けている人間なので、ああまで繊細な若者像を否定してしまいそうに成ります。何処か、もう少し大らかな若さが欲しいような。 14,15曲目などの曲も嫉妬を感じながら激しく歌っていても何処か哀しく繊細さが前面に出ているようです。
   本当に上手い人だと感じ入るばかりです。彼が思い描こうとした通りに表現出来ているのでしょう。ただその若者像が私的に描いているものと少し違っている気がします。勿論彼の方が正しいのですけれどちょっとだけ反発してしまいます。 出待ちをするつもりは無かったのですが。会場のホワイエでサインをしてくださると言うのでつい並んでしまいました。もとよりこのホールは400席位の小ホールなので、さほど混雑するほどでは有りません。 目がとてもチャーミングな方で吸い込まれそう!。素顔は結構明るい感じの方でした。 「SCHBERTIADEでWOLFのプログラムを聴かせて頂きました」と申し上げましたら喜んでくださいました。(Y)

   Schwarzenberg での印象がCDに比べてあまり良くなかったので不安もありましたが、出だしを聞いてあっいいなっとすぐ感じたので後は安心して聞いていました。感心したのはこの人はいろんな声の表情が出せる人だなということです。シューベルトのこの曲をそこまできめ細かく表現する必要があるのかと思うくらいの感がありました。でもこれがゲルネの歌なんだと納得させる歌でした。
  びっくりしたのは舞台でよく体を動かすことです。左右へ前へと一歩以上、時には横を向いて歌っているようなこともありました。詩の内容と関連して右を向いているときはどう、左を向いているときは、と計算されているのかなと思いましたがそうではないようでした。あまり大きな体、手の動きはじゃまで私は好きではありません。(H)
 
第2夜 冬の旅  12月13日
   今日は補助席まで埋まっている満席状態です。やはりこの人の冬の旅 は是非聴きたいと思うのは当たり前。休憩無し、途中入場は出来ないとの注意が有りました。 そのためか、演奏開始が10分以上遅れています。やっと始まると思ったときにプラカードを持った会場係の女性が通路を歩いてくるのを見て、後ろの人たちが「まさか、キャンセルじゃ無いだろうな?」と不安げに囁いていたのは、前のキャンセルのショックが残っているなと思いました。近づくと携帯の電源を切って下さいと書かれていましたけれど。
   今日の第1声は正直驚きました。身も世もないほど打ちひしがれて旅にでる若者像です。昨日よりさらに繊細で本当に暗くて旅が続けられるのだろうか?というほどです。 今年は散々この曲集を聴きましたがここまで落ち込んだ感じを表したのは無かった気がします。彼のCDでも感じませんでした。(ブレンデルとの分は最初が欠けてしまっていたし・・・) もとより短調が殆どで24曲中長調が たった6曲なのだから暗くなって当たり前とは思いますが、その6曲でやっと明るくなるかと思うのも束の間です。会場で貰ったパンフに出口の見つからないと書かれていましたがその通りです。 少し聴いているのが辛く胸が苦しくなりました。 やはり、私のような楽天的な人間には付いていけないみたいです。でも聴き進んで行く内、シューベルトが描きたかったのはまさにゲルネが表そうとした通りだったような気がしてきました。だから、初演の頃は評判があまり良くなかったのかも知れません。 もう少し精神的に元気な若者が良いなーー。 会場中が非常に静かに聴いているので、咳き込みそうになる人も出てきて、のど飴を出してくるのですがなかなか封が開かなくて”かしゃかしゃ ”と音がします。これが結構耳障りでした。 普段は必要ない人もこういう乾燥したホールでは必要なのだから、メーカーもちょっと考えて欲しいですね・・。(Y)

  この日も出だしはOKでした。第1声ではなくピアノの出だしのテンポです。2日前の水車小屋の歌からきっと冬の旅の方が合っているだろうと思っていました。あまりに気持ちよく初めの方でうとうとしてしまったようです。気がついたら Wasserflut が始まっていました。この曲が悲しみに満ちあふれていて感心してしまいました。全24曲本当に声、体、表情を総動員した全力投球の歌でした。これこそゲルネという存在感のある個性的な歌と言えるのでしょう。
  この先たぶん何回もゲルネの冬の旅を聞くことができることを期待し、さらにどう変わっていくか、とても興味があります。その点でも今回、日本初デビューを聞きに行って良かったと思います。 (H)
  
第3夜 白鳥の歌
PROGRAM
遙かなる恋人に寄すベートーヴェン
白鳥の歌 からレルシュターブ詩による歌曲 7曲
ハイネの詩による歌曲     6曲
アンコール Die Taubenpost
Wanderers Nachtlied
Der Musensohn
   本編で歌うべき?曲をアンコールの最初に持って来ているのですね。 HAMPSONのリュッケルトもそうだったしこのスタイルがこの節多いのでしょうか? ちょっと時間的に短いかな?と思いました。HAMPSONの時は「白鳥の歌からハイネの6曲、遙かなる恋人に寄す、詩人の恋20曲だった」から10曲くらいは少ない感じ。
   最初第1声が伸びやかに響いたと思ったら、急に歌い止めて楽屋に引っ込んでしまいました。みんなビックリ。何が何だか?? そのうち会場が明るすぎるからライトを落とすように指示された事が解りました。舞台の方が暗くて歌いづらかったのでしょう。そう言えば前回の時は確かにPROGRAMなど見えなかったのに、今日ははっきり読めましたから。
   そんなアクシデントが有り気が楽になったのか肩の力が抜けたのかとても伸びやかな声で始まり、良い気持ちに成りました。 ところが2曲目の高音の部分がかなり高めに響き、今日もかなと不安に成ります。何回か続くとしまいに気持ち悪く成ってしまいました。 第1日目からかなり気になっていたこの高音の響きの高さ。今日のは確かに上擦っていると言えるほどでした。上のD E F 音でそれも音を前面に大きく出したときは必ずです。同じ音でも後ろに引いて響かせたり、P、PP 等で歌っているときはそうならないので音のクセなのかも知れませんが、気になって、気になって仕方が有りません。 歌を楽しむどころでは無くなってしまいました。
   あれだけ、声が良くて、自分の思う様の表現が出来るこれほどの人がこんな事でせっかくの歌心を伝えきることが 出来なくなるのが不思議なくらいです。 素晴らしい歌い方の方が大部分なのに、そちらの方を楽しめなかった自分も哀しいです。勿論凄い才能を持った人だし、彼の最高の出来なら世紀の名演だろうからそれを聴いて、思う様浸ってみたいと願っただけです。3夜の中では冬の旅が私は一番惹き付けられました。(Y)

   靖子が言う高音がというのは、前2回は全く私にはわからなかったのですが、今回は1カ所だけあれっと思うところがありました。でも、それがどうのこうのということはないのです。よく分からないベートーベンは別として、白鳥の歌は最初の歌から悪いわけではないのですが、どうも違う、聞き心地が良くないな次の曲はどうだろうと思いながら聞き続け、結局最後まで来てしまいました。どの1曲もあーこれはいいなあというのが私にはありませんでした。何でかは私には分かりません。まあ好みの問題でしょうね。
  3つ続けて聞いて自分にとって強く印象に残ったのは冬の旅でした。生で3つまとめて聞くのは初めてです。FM放送でもプライとシュライヤーしか経験がありません。歌う方にとっても大変でしょうが、聞く方も大変ですね。いままで、ほとんど詩の内容は気にせず、歌い手の声を楽器のように聞いていました。が、今回彼の歌を聴いて少しは詩の内容にも感心を持ってみようかと思いがでつつあります。(H)


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