小説 生活保護費現物支給

南関東市役所には「ナマポよりも尊厳死」の垂れ幕が下がっている。
日本一の温泉街として知られていた南関東市は新婚旅行先としても賑わっていた。
時が流れて温泉の横綱と言えば西の別府か東の草津で南関東市が温泉街であることを知る人も少なくなった。
客が少ないから利益も少なくてホテルや旅館は施設設備の改修もできない、改修できないから施設設備が老朽化する、施設設備が老朽化してるからさらに客足が遠のく悪循環に陥っている。
すっかり寂れてしまった南関東市は税収も減って“節約”が焦眉の急であった。
福祉課職員は「生活保護なめんな」「生活保護悪撲滅チーム」とローマ字で書かれたジャンパーを羽織って、生活保護受給者宅を訪問して圧力をかけます。
福祉課長などは若い女性の受給者には性的上納するかナマポ辞退するか決めろと迫るとの噂も絶えなかった。
性的上納不適格者(男性と中高年女性)には福祉課長の発案で現金の代わりに一部ではあるが現物支給と称して食糧を支給している。
支給食糧は産業廃棄物としてゴミ処理場に持ち込まれた賞味期限が残り少ないコンビニ等の廃棄食品です。
一部の若手職員からはいくらなんでも賞味期限切れ食品はまずいのではとの意見も出ました。
例え賞味期限が1日~2日過ぎたとしても味は変わらんよ。そもそも消費期限は過ぎてないので全く問題ない。と、自称“仏”の福祉課長は薄笑いを浮かべていました。
ナマポ費を大幅に減らしたとして評価されて時期企画部長の呼び声も高かった市の福祉課長が電車内での痴漢容疑で逮捕された。
課長は身に覚えがないと否認したがナマポ受給者の若い女性への性的上納要求の件が発覚するに至っては反省の色がないとして罰金50万円及び禁錮6か月(執行猶予3年)の判決が出た。
課長は懲戒免職になって退職金も出なかった。
中年の前科者に再就職先はなかった。
預金を使い果たした元課長は生活に困ってナマポを申請したが自分が作った支給要件に合わずに却下された。
元課長は現役時代にお前は甘いと怒鳴りつけていた若手職員のお情けを受けて、農業を生業とする若手職員の父親が畑の隅に置いている規格外野菜を拾ってきて食べて命を繋いでいた。
恰幅が良かった元課長は骨皮筋右衛門になってしまった。
ふらつく足でいつものように畑の隅に置いてある規格外野菜を拾いに行ったら先客の猪に出くわしてしまった。
猪に牙で一突きされた元課長は薄れゆく意識の中で罰が当たったと思った。
翌日の地方紙の社会面に「自称“仏”の福祉課長仏になる」との記事が掲載された。