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「うぅ〜寒い!」
教室を1歩出ただけで寒さが身に染み渡る。
季節は冬真っ只中の1月末日。
今日は道明寺の誕生日。
―――――― だけど
あいつは今 日本にいない
「 今頃 イギリスは何時なんだろ・・・ 」
空を見上げ マフラーですっぽり口元を覆いながら小さく呟いた。
高く澄み切ったその青空に
『 わりぃ・・・ やっぱ帰れそうにねぇ ・・・ 』
あいつのバツの悪そうな表情が微かに蘇る。
仕方がないと割り切っているつもりでも やっぱりちょっと寂しい。
これで ・・・・ えっと 何回目だっけ?
一緒に過ごせなかった あたしたちのイベントデーは。
どこまでも
Tukasa's Birthday
去年の春。
4年間の修行を終え 約束どおり日本に帰ってきた道明寺。
『 これからは誕生日とかクリスマスとか、イベントは一緒に過ごせるな 』
あたしを優しい瞳で見下ろしながら そう嬉しそうに言ってくれたあいつは
まるで今までの空白を埋めるかのように あたしにベッタリで ・・・・
きるはずもなく ――――――――――
イベントはおろか 普段の日でさえ会うことが困難なくらい アッチに出張 コッチに出張。
毎日 本当に忙しい日々を送っていた。
お蔭で あいつが日本に帰ってきてから現在に至るまで
あたしたちは結局
恋人たちの祭典とでも言うべきイベントたちを ことごとく逃し続けている。
「 くそっ! 今度はイギリスだとよ! ばばぁの奴、嫌がらせとしか思えねえ! 」
そう電話が掛かってきたのが1週間前。
確か ・・・・・ イタリアからだったはず。
そんでその前は えーっと ・・・・・ どこに行ってたんだけっけ?
フランス? 香港? まあ どこでもいいや。
とにかく。
――――――― 出張先から 次の出張先へ。
そして そのまた次の出張先 ・・・・。
そんな風にして 道明寺はいつも世界中を飛び回っている。
仕舞いには
『 司 ・・・ 帰ってきたとか言いながら、日本いるほうがレアだよな 』
などと 親友たちにも言われる始末。
わかってる ・・・・・ だってあいつは道明寺財閥の後継者。
のんびり好き勝手やっていた学生時代とは違い
今では副社長という位置で 世界中を相手に戦っている。
あいつの言動1つ1つが注目されているような中での生活。
それでも道明寺は
『 俺の帰るべきところが、牧野のいる日本ってのが大事なんだよ 』
なんて反論していたけど ――――――――――
もうかれこれ2ヶ月近くは日本に戻ってきていないはずだ。
確かにあいつは 約束の4年で日本に帰って来た。
今 日本にいないこの状況も < ただの出張 > と言ってしまえば・・・ 確かにその通り。
だけど ・・・・ 一度 戻ってきてくれたあいつを知ってしまった今
2ヶ月という月日は あたしの胸にポッカリと穴を開けるには十分な期間だった。
4年間も耐えてきたのに たった2ヶ月で寂しくなるなんて
これって あたしが相当あいつにイカれてるってこと? ――――――――――
そんな風に思いながら ふっ と小さく笑う。
『 わりぃ ・・・ 』
申し訳なさそうに謝るあいつの顔が 今一度 今度は鮮やかに蘇った。
ほんとだよ、まったく・・・
そう小さく心の中で毒づいて あたしは大学の門を通り過ぎた。
「 遅せえっ! 」
その声は どこからともなく降ってきた。
大学の門を通り過ぎて数メートル。
突然あたしの目の前に現れたのは 壁にもたれ掛かった ――――――――
・・・・・ 道明 ・・・ 寺 ?
「 なっ・・・・・ 」
その立ち姿はまるで 雑誌から抜け出てた一流モデルのようで ・・・
自分の存在がいかに目立っているかなど
そんなことはまるでお構いなしと言った様子のあいつ ・・・・
―――――――――― って違う! そんなことはどうでもいいのよっ!
なっ ・・・ 何であんたが日本にいるのよ?!
不敵な笑みを浮かべながら 1歩 また1歩とその距離を縮めて来るあいつ。
あたしと言えば そのありえない光景に ただ目をパチクリさせるだけで ・・・・
まるでヘビに睨まれたカエルのように ただじっとそこに立っているのが精一杯だった。
「 なんだ。 嬉しすぎて声も出ねーってか? 」
そう言いながら ジリジリと距離を詰めてくる道明寺。
何とか口を開いて 大きく息を吸い込む。
そして
「 こっ! こっ来ないで!//// 」
気がつけば ――――――――――
目を閉じたまま俯き 両手を前に出して叫んでいるあたしがいた。
あと2歩も歩けば 確実にあたしまで辿り着いたであろうあいつは
その言葉に反応し ピタリと歩みを止める。
―――――― げっ!! 何言ってんの あたし!!
自分自身に驚きながらも 恐る恐る顔を上げるとそこには ――――――――――
青筋を2本 ・・・ いや3本? 浮かべた道明寺の顔。
・・・・・・・・
えっ えーっと ・・・・
「 てめっ。 ・・・・ どういうつもりだ 」
「 ・・・ へっ? ・・・・ どっどういうつもりって? 」
オドオドしながらも 必死に笑顔を取り繕い
今 発したばかりの言葉を無理やりごまかしてみる。
「 来ないで!ってどういう意味だって聞いてんだよ。
ったく、愛しい男が帰ってきたってのに嬉しくねーのか。てめーは! 」
「 //// いっ?! 愛しい男?! 」
「 おう、そうだ。 俺はおまえにとって < 愛しい男 > だろうが 」
エッヘンと胸を張るように、体を反らせたあいつ。
・・・・・・・・・・・・
確かにあたしは道明寺が好きだけど ・・・・・
自分で自分の事を < 愛しい男 > とか言っちゃうコイツって ・・・・・ どうなのよ?
って言うか こんなのが世界経済をも左右する大企業の跡取りだなんて 誰が思うだろうか。
「 あのねぇ ・・・・ 自分で言ってて恥ずかしくないの? 」
「 全然! 」
悪びれた様子も 照れた様子もまるでなし。
その代わりに 止めていた足を2歩前へ。
文字通り あたしの目の前までやってくると
「 だって本当のことだろ? 」
そう言いながら 大きな体を折り畳むようにして あたしを覗き込んだ。
「 /////// うっ・・・//// 」
思わず言葉に詰まるあたし。
だって そう ・・・・・・・ あたしはコイツに惚れている。
この目の前に立つ男があたしの < 愛しい男 > なのは確かだ。
そんなこと ・・・・・ 絶対口には出さないけど。
「 俺はすっげー会いたかったぜ? 」
やっぱり恥ずかしがる様子もなく 道明寺はそんなことを サラッ と言ってのける。
「 /////あっ・・・あたしだって 」
今にも噴火しそうな顔でそう言うと あいつは少し照れたように笑って
あたしを抱きしめようと手を伸ばした。
「 /////だったから! ちょっと待ってって!! 」
そんな道明寺の動きを またも制したあたし。
「 てめっ ・・・ ケンカ売ってんのか? 」
道明寺の額には 折角消えた青筋がまた1本。
「 ちっ違うわよ! その・・・・/////// 」
「 なんだ! はっきり言いやがれ! 」
「 あたしにだって 心の準備ってもんがあるのよ!//// 」
「 は? 何の準備だ。別にここで脱げとか言ってるわけじゃないだろ 」
「 //////ばばば ばかっ! 何てこと言うのよ! 」
「 バカはてめーだ。 寝る間も惜しんで仕事を終わらせて
ジェット飛ばして帰ってみればこの歓迎かよ。 ったく、信じらんねー 」
あいつが クシャクシャ と頭を掻き つまらなそうに プイッ と横を向いた。
あたしが言うのも何だけど ・・・・ 不貞腐れるのも当然だと思う。
きっと常人だったら倒れてしまいそうなほどの過密スケジュールをやりこなし
やっとの思いで帰ってきたのだろう。
それで こんな歓迎じゃ ・・・・ そりゃ怒るよね。
そんなことくらい あたしにだって分かる。
でもだからこそ!!
ちゃんと ・・・・ ちゃんとあたしから言いたい。
あたしは大きく息を吸い込んで 道明寺をまっすぐ見つめた。
「 あたしから ・・・・ 」
「 は? 」
「 あたしからちゃんと言わせて////// 」
「 ・・・・・・・ 」
「 おかえりなさい。 それと////// ・・・・・ 誕生日おめでとう! 」
そう言って 自分から道明寺の胸に飛び込んだ。
優しく香るコロンが あたしの鼻を心地よく擽る。
顔が熱い。
頭から湯気が出てるんじゃないかと思う。
道明寺は一瞬驚いたものの そんなあたしをすぐに抱きしめ
「 サンキュ 」
とだけ 耳元で囁いた。
それからどうやってあいつの車に乗ったのか覚えていない。
興奮がそうさせたのか はたまた羞恥心がそうさせたのか ・・・・・
あたしの記憶は 見事なまでに それ以降の部分が抜け落ちていた。
フカフカのシートに座るあたしと道明寺。
あたしの左手と あいつの右手がしっかりと絡み合う。
そう言えばあたし ・・・・ 何もプレゼント用意してなかったんだっけ。
「 あっあのね、道明寺 」
「 あ? 」
「 あたしプレゼント何も用意してなくて・・・・。
何がいいのかずっと考えてたんだけど、なかなか思い浮かばないし
まさかあんたが帰ってくると思ってなくて、その、まだ用意が ・・・・ 」
「 いらねーよ、そんなもん 」
「 そっそそんなもん?! そんなもんってことはないでしょ!
そりゃあたしは貧乏だから、大したもんは買えないかも知れないけど ――― 」
「 モノなんていらねーよ。 気持ちだけで十分だ。
それに、俺は欲しいものは何でも手に入るからな 」
ふふんっと得意げにあいつが笑った。
――――― 欲しいものは何でも手に入る ――――――
ムカツクけど 本当のことだけに尚更憎たらしく思える。
「 だよね。世界の道明寺だもんね 」
最大限に嫌味っぽく言ってみたけど 道明寺からは ”おう、まあな” と
さらに憎たらしい答えが返ってきただけだった。
「 でもそう言えば、欲しいもんあるな ・・・。
ずっと探してるんだけど、なかなか見つからねーやつ 」
「 え? なに、なに? 」
あいつが欲しいという物に 思わず喰いついてしまう。
あいつが欲しがる物 しかも なかなか見つからない ―――――
果たしてあたしでも買えるものだろうか ・・・・
「 おまえ 」
「 は? 」
「 だから、おまえ 」
・・・・・・・・・
「 ////// なっ! 」
また 一気に顔が火照る。
おおおおまえって! ・・・・・・・
「 ・・・・・・・ おまえ、今変な想像しただろ? 」
「 へっ?///// しっしてない! してない! 」
「 嘘つけ。顔に書いてある 」
「 なによそれ! そんなわけないでしょ!
だ ・・・・・ 大体、変な想像って何よ!////」
両手で頬を摩りながら慌てまくるあたしを見て
道明寺は ”まっ、当然それもあるけどな ” と言いながら
背中を丸めて くくくっ と笑った。
そんな無邪気に笑う道明寺を見て あたしの心は何だか すぅ と軽くなる。
顔を赤くして反論している自分がおかしくて あたしも声を出して笑った。
そして一通り笑い終えた後
道明寺は急にまじめな顔になってあたしに向き直り
「 時間 」
と小さく呟いた。
「 時間? 」
あたしは首をかしげて聞き返す。
「 おう。おまえとの時間。 牧野と一緒に過ごす時間が欲しい。
一分でも、一秒でも長くおまえと一緒にいたい 」
「 道明寺 ・・・・・ 」
「 今日のおまえの時間を俺にくれ。 プレゼントはそれでいい 」
とても真面目な顔だった。
道明寺の言う < あたしの時間 > の中には 何が含まれるのだろう。
さっきの ・・・・ あいつの言葉が脳裏を掠める。
―――― 『 まっ、当然それもあるけどな 』 ――――
不思議と怖くはなかった。
むしろ 落ち着けると言ったほうがしっくりくるかも知れない。
「 あたしも。 ///// あたしも道明寺と一緒にいたい 」
あいつの瞳を見つめ返しながらそう言うと
あいつは優しく微笑み あたしたちはどちらからともなく唇を重ねた。
どこまでも深く 優しく包み込むようなKISSの後
あたしは大事なことを思い出し 慌てて携帯を取り出した。
「 なんだ? 家にでも電話すんのか? 」
「 ううん、バイト先。 今日のバイト断らなくちゃ 」
「 はぁ? おまえ、こんな日にバイト入れてたのかよ? 信じらんねぇ 」
「 しょうがないでしょ?! 出てくれって頼まれてたんだから。
それに道明寺だって帰ってくる予定なかったじゃん。
あたしだって、あんたの誕生日に一人でモンモンと過ごすのイヤだったんだもん 」
「 ///// おまっ! 女がモンモンとか言うんじゃねー 」
「 //// なっなんでよ! あんたが変な想像してるだけじゃない! 」
「 ・・・・ してねーよ!////」
「 してた 」
「 してねー 」
「 してた! 」
「 ・・・てめっ。ほんとに想像していいんだな?! 」
「 ////// げっ 」
「 っつーか・・・・、今のは想像して欲しいってことか?!//// 」
「 ばっ! ちっ違う///// 」
「 そーか、そーか/////// なんだそういう事か 」
あいつの顔が面白いほどダラしなく緩む。
「 ////// 違うっつってんでしょうがーーーー!! 」
ギャーギャーと煩い車内。
きっと運転手さんはビックリしているだろう。
そんなあたしたちを乗せ 車は静かに加速しながら高速へと入っていった。
どこへ向かっているのかは知らない。
そんなことはどうでも良かった。
道明寺と過ごす貴重な時間。
あいつの誕生日には ―――――――
あいつの喜ぶものを
あいつが本当に欲するものをプレゼントしたい。
ずっとそう思ってきた。
それが ・・・・ あたしと過ごす時間だって言うなら ――――――――――
お安い御用よ。
今日一日 あんたに付き合ってあげる。
・・・・・ どこまでも。
― fin ―
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